――日本はサイバーセキュリティの欠如によって、相当額の損失をしているということでしょうか。
アサフ その通りです。警察レポートによれば、日本はサイバーアタックによって毎年10億ドル単位の損失を出しています。直接的なデータ窃盗もありますし、知的財産や特許の不正入手も甚大な被害になっています。大企業は、こうした問題を認識しているはずですが、なかなか新しい環境に適応できないのが現状です。
私たちはソフトバンクをパートナーにビジネスを展開しています。これは本当に幸運なことでした。「ソフトバンクが価値を見出しているのなら、それだけの意味があるのだろう」という評価につながっているからです。ただ、それは他の業種にも言えるかもしれませんね。大企業の動きを見てからでないと、評価が定まらないという問題です。
ニール ブランド意識ですね。
アサフ 私たちは1年半で顧客数を4倍以上にすることができましたが、かなりのハードワークでしたね。ソフトバンクのような巨大企業の支援がなければ、とても無理だったでしょう。
間違いなく文化的な摩擦は起きるが
ニール 私は日本に関するイスラエル人の意識も変えたいですね。イスラエルの起業家には「このハードウェアのテーマパークに一度はおいでよ」と言いたい。日本が何を提供できるのか、まず身をもって体感してほしい。この魅力を味わったら、安易に「とりあえずアメリカへ行こう」という発想にはならないはずです。もちろん、日本は遠いですし、イスラエルからの直行便もない。過去に「失敗」した企業からは、「もう日本はいいよ」なんて声も聞こえてきます。アジア支社はシンガポールや中国にあれば十分だと。こんな状況だからこそ、イノベーションのための両国の架け橋が必要なのです。
アサフ イスラエル企業が日本とのビジネスを始めると、まず間違いなく文化的な摩擦を経験することになります。イスラエル人は「なぜ日本人は何でも正確じゃないと気がすまないんだ」と当惑するし、逆に日本人は「なぜイスラエル人は正確な回答をしてくれないんだ」と頭を抱える(笑)。
ただ、個人的には日本のビジネス文化にはいい点がたくさんあると感じています。職業倫理は高いし、オフィスも整理整頓されている。私はイスラエルの精神を日本の効率的で秩序だった職場に持ち込めることをとてもポジティブにとらえています。街中で突き飛ばされることもないし、みんな行列にキチンと並んでいますからね。イスラエルでは……。
ニール そもそも列なんてないからね(笑)。
アサフ 社会の秩序は、本当に意味があることなんです。
ヨアブ 実際に日本とイスラエルのビジネスを融合させるためには、どんな方法があるのか。即時的な効果が見込めるのは、Cybereasonのようなジョイントベンチャー(合弁企業)ですね。ただ、それだけでは十分とは言えません。イスラエル企業の日本進出を手助けしつつ、日本企業によるイスラエルへの投資を呼び込むことが、私たちの目下最大の仕事です。
〈イスラエルは「俺がやらずして誰がやる!」というメンタリティを感じさせる。なにしろ「国の生存」がかかっている。それは危機感と表裏一体である。だからこそイスラエル国内はもとより、世界中のユダヤ人がネットワークで繋がり、助け合う。目標はただ1つ、「生存」。そのために、イスラエルは「知」を結集してきたのである〉
――『知立国家 イスラエル』はじめに イスラエル急成長の秘密を探る
――国民1人あたりの起業率、ベンチャーキャピタル投資額などで、イスラエルは世界トップクラスです。なぜイスラエル人は日本人と比べて起業家精神、アントレプレナーシップに富んでいるのでしょうか。
ヨアブ 一人ひとりの個人には国籍が違っても大きな違いはないと思います。違いを生み出すのは環境です。アントレプレナーシップについても同じことが言えます。日本社会では、新しいことを始めても、必ずしも賞賛や評価の対象になるわけではありません。よほどの変わり者でなければ、そのような存在になろうとは思わないでしょう。私自身も、日本社会で生まれ育ったら起業しようという発想にはならないと思います。