――日本には、「出る杭は打たれる」ということわざもあります。
ヨアブ 起業するまでには、本当にたくさんのハードルがあります。有名大学を卒業して「ユーシュー」な人ほど、他にいくらでもキャリアの選択肢がある。一方、イスラエルでは起業家になる環境が揃っています。
アサフ 結局、人間は人間なんです。どんな民族でもどんな宗教でも、スマートな人もいればそうでない人もいる。違いがでるのは、社会の成り立ちからでしょう。イスラエルの若者たちは、自分たちの意見が輝くこと、取り入れられることに大きな価値を認めます。そのためには、中小企業やスタートアップ企業に活路を見出すのです。大企業の安定性を求める日本とは反対ですね。
教育制度の違いもあると思います。例えば、日本の学校では、「先生の言うことをききなさい」と教えられるそうですね。イスラエルでは、先生に従わないこと、あるいは上司や教授に面と向かって「あなたは間違っている」と言うことは至極普通です。私は入隊直後も、将軍に向かって「賛同できません」と告げたことがあります。いずれも日本ではあまり見られない光景です。間違いを指摘するにしても、恥をかかせないようにする。同じように英語を話す日本人でも、帰国子女と日本社会で育った日本人では、そのあたりの感覚がまったく違うように感じます。
ヨアブ 私は日常的に日本語を話していますが、いまだに「ケイゴ」がうまく話せません。日本人だったら、きちんとケイゴを使えない社会人は「気さくな人」というよりは「知性の足りない人」だと受け取られてしまうんでしょう? 私は外国人だから、そのあたりを大目に見てもらえるんですよ。ただ、若い人がのびのびと活躍できる社会に徐々に変化してほしいとは思っています。
「カイゼン」がインターネットに及べば……
――日本では革新的なウェブサービスが立ち上がっても、基本的には国内で完結してしまいます。一方、イスラエルのスタートアップでは、最初からグローバルマーケットをターゲットにしていると思います。日本のネットベンチャーは、まだ世界で勝負できるのでしょうか。
ニール 「グローバルに」という合言葉は、イスラエルのスタートアップ企業に共通している点ですからね。私たちは今月末に都内で「ジャパン・イスラエル・イノベーションサミット」を開催しますが、そのテーマがまさに「グローバルに」。最初から外のマーケットを狙っています。
ヨアブ とてもいい質問です。私は、そこに大きなポテンシャルがあると考えているからです。日本にとって、モノづくりのクオリティは大きな財産です。そこがインターネットやソフトウェアとうまく結びつけば、強力な武器になるはず。その過程で、イスラエルや他の国との提携もあるかもしれません。
例えば、民泊サイトの大手Airbnbはアメリカの会社ですが、テクノロジー自体はそこまで複雑ではありません。こういうサービスは、日本企業が類似システムを作れば大きく使い勝手を向上させることが可能だと思います。日本発になるのか海外企業とのジョイントベンチャーになるのかは別として、細部まで行き届いた「カイゼン」がインターネットに及べば、Airbnbのような先行サービスに打ち勝てるようになるはずです。先ほど新幹線のオンライン予約の話をしましたが、少なくとも私の知る限りでは日本の鉄道システムは世界一です。
アサフ 間違いない。
ニール 食に関しても世界一です。日本における美食のイノベーションを確かめたければ、コンビニに足を運ぶだけで事足りるわけです。常に期間限定の新商品が発売されていますけれど、他の国ではありえません。
アサフ しかも安い。イスラエルで普通の食事をしようと思ったら、日本の倍以上はかかりますから。日本に遊びにくる友達は「物価が高い国」だというイメージを持っていますが、少なくとも食とお酒は違う。みんな驚いていますね。
ヨアブ 企業にも向き不向きはあると思いますが、グローバル展開するために効率的なのは、特定の分野に強みを持っている海外企業に投資をすることです。私の立場からは、イスラエル企業を推しますが。Cybereasonはその好例です。そうやってシナジー効果を積み重ねていくことで、日本のインターネット企業も海外に通用するサービスを展開できるようになるのではないでしょうか。
ニール そして、買収先や投資先をあまり「日本化」しないことですね。
――「0から1」を生み出すのが得意なイスラエルのベンチャー企業、そして「1から100」への改善を得意とする日本のモノづくり技術の協働こそが、世界に通用するビジネスにつながるかもしれないということですね。今日はありがとうございました。
写真=山元茂樹/文藝春秋