やがて実験は制御不能に
2日目で早くも変化が起きた。人糞の悪臭が漂う部屋で、睡眠を剥奪され、虐待された囚人たちは、ひとりまたひとりと脱落していく。だが、看守たちは、思うままに権力を振るい続ける。
遂にひとりの囚人が、ヒステリーを起こして叫び、実験監獄のドアを蹴った。
「何だってんだ。ジーザス! はらわたが煮えくり返る。わからないか? おれは出たいんだ。ここは最悪だ。もう一晩も耐えられない。うんざりだ!」
囚人のうちの5人が「極度の落ち込み、号泣、激怒、激しい不安」の兆候を示していた。実験の展開に恐怖を感じた大学院生が、ジンバルドをなじった。ジンバルドは、囚人を完全に支配しようとする看守長を演じるようになっていたという。
6日目にして実験は制御不能となり、中止された。
「平凡な学生の一団が、怪物に変わってしまった」――それは衝撃的な結果だった。
世界中に流布され、有名な実験に
データ分析も済ませないうちにジンバルドは、複数のテレビ局に実験の画像を送った。同実験はメディアに取り上げられ、ジンバルドは最も注目される心理学者となり、アメリカ心理学会の会長までのぼりつめた。
実際のところスタンフォード監獄実験は、おびただしい数の本やメディアに引用されて、世界中に流布してきた。アメリカの心理学の教科書に載り、ハリウッド映画やネットフリックスのドキュメンタリーでも描かれた。
アメリカで人気を誇ったビジネス書作家マルコム・グラッドウェルも分かりやすい論評を行い、実験を広く知らしめた。すなわち「普通の人を、恵まれた環境、幸福な家庭、良い学校から連れ出し、身辺の詳細を変えるだけで、行動に強い影響を与えることができる」と。
しかし近年、この研究の真偽に対する疑惑が持ち上がっている。スタンフォード監獄実験は、ねつ造だったというのだ。
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