前稿の「アブラナ科の野菜」に続き、がん予防に効果のある食材の“野菜・果物篇”の第二項は、ニンジンに代表される「緑黄色野菜」について検証していきます。

 緑黄色野菜のがん予防効果の牽引役は、「β-カロテン」という成分です。皆さんもその名前は耳にしたことがあると思います。健康志向の野菜ジュースなどには、必ずと言っていいほど「ニンジン△本分のβ-カロテン!」などと書かれているものです。でも、名前は知っていても、β-カロテンの実態を知っている人は意外に少ないのではないでしょうか。

 β-カロテンは、緑黄色野菜には必ず含まれているカロテノイドという名の色素成分の1種。抗酸化作用と呼ばれる、がんや老化の原因となる活性酸素を抑制する働きを持っており、以前からがん予防に何らかの効果を示すのではないかと期待されていました。

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 そこで、国立がん研究センターの研究班が実施した多目的コホート研究では、このβ-カロテンを含むカロテノイドやビタミンなどについて、それぞれの血中の含有率の違いによって将来のがんの発生率に差が出るかどうかを追跡調査しました。

 この調査では、血中に含まれるカロテノイドやビタミンなどの含有率を、高い順に4段階に分けて検証していますが、結果は「β-カロテン濃度が高い男性」に、胃がんの発生率が低いことが分かったのです。

 またこの調査では、ルテインやリコペン、α-トコフェロールなどの成分と胃がんのリスクに相関関係はありませんでした。

 また、女性にはβ-カロテンと胃がんの発生率の間に関連は見られませんでした。これは、男性に比べて女性は血中のβ-カロテンの濃度が元々高く、男性のほうがこれを摂取した時のがん予防効果が大きく見えることによるもの、と推測することができます。

 つまり、元々β-カロテンの血中濃度が低い男性は、緑黄色野菜を積極的に摂ることで胃がんの予防効果が高まるが、元からβ-カロテンの血中濃度が高い女性は、必要量以上に摂取しても予防効果がそれ以上に高まるものではない――ということが、この調査結果からは見えてくるのです。

 この多目的コホート研究では食事からのβ-カロテンが肝がん予防に効果を持っているという結果も示されています。

 2007年に世界がん研究基金と米国がん研究協会が発表した(現状の科学的根拠に基づいた)評価では、β-カロテンの食道がんに対する予防について「可能性大」としています。やはりニンジンをはじめとする緑黄色野菜はがんを防ぐ上で重要な食材と言えるのです。

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 ちなみに、β-カロテンはニンジン以外にも、モロヘイヤ、ホウレンソウ、小松菜、春菊、シソ、パセリ、カボチャなどに含まれています。熱に強く、また脂溶性といって脂に溶けやすい性質なので、油炒めや揚げ物にすると吸収率が高まります。その意味では、調理しやすいがん予防成分と言うことができるでしょう。

 そんな便利で役立つβ-カロテンですが、すでに十分な摂取量がある人が、サプリメントなどで過剰に追加摂取すると、逆に肺がんや死亡のリスクが高まることが確認されています。

 野菜として日常の食事の中で積極的に摂っている分には問題はありませんが、度を越してしまうと逆効果になるということは、心に留めておくべきでしょう。