2021年の将棋界を振り返ってみると、「4強時代」と言われていた状況から藤井聡太竜王の「1強時代」へと変わる過渡期だっただろう。そのことは他の棋士が藤井に負かされ続けたということに他ならない。
特に藤井旋風を真っ向から浴びたのが豊島将之九段であろう。
豊島もやはり並ではなかった
2021年が始まった時点では豊島は竜王と叡王、藤井が王位と棋聖を持つ二冠同士であり、また公式戦における直接対決は豊島の6戦全勝だった。ところが1年経ってみると、直接対決は藤井の13勝10敗と逆転しており、そしてタイトルは藤井の四冠に対して豊島はゼロ。豊島が挑戦した王位戦で負かされたのみならず、持っていた竜王と叡王をいずれも藤井に奪取されてしまった。
その一局一局の将棋をみると、すべてにおいて藤井が圧倒していたわけではない。むしろ豊島のペースで進んだ対局もあった。だが、僅差のところで藤井が上回っていたというべきだろう。その結果がタイトル数でも見て取れる現実である。
このまま、豊島はもう二度と藤井に勝てないのではないか、という見方もあったかもしれない。それは大げさにしても、大きな舞台で早めに借りを返さないとズルズルいきかねないというのが勝負のアヤである。
果たして、竜王を奪われた直後の豊島は、ふたたび藤井と指す機会があった。その舞台は将棋日本シリーズJTプロ公式戦決勝。タイトル戦ではないが、トップ棋士12名が集うトーナメント戦である。ここで借りを返せれば、反撃の狼煙は上がる。並の人間なら「またこの相手と指すのか」と嫌気がさしていてもおかしくない状況だが、豊島もやはり並ではなかったのだ。多くの観客が見守る公開対局で圧勝して、対藤井の連敗を止めた。
「あきらめずに、実力をつけていくしかない」
とは、優勝の記者会見で豊島が繰り返し述べた言葉である。