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「風車 風の吹くまで 昼寝かな」

 だが、中原にはすぐに雪辱を果たす機会が巡ってきた。同年の十段戦で挑戦権を獲得。七番勝負の相手は因縁の加藤である。第3局を終えて2勝1敗と勝ち越し、気持ちに余裕ができた時に読んだ一冊の本が伊藤肇氏著の「左遷の哲学」で、そこには以下の川柳が紹介されていた。

「風車 風の吹くまで 昼寝かな」

 戦前に内閣総理大臣を務めた広田弘毅が、外交官時代に不本意な左遷を命じられたときに残した一句だが、中原はこの句について「私はここの部分に深い感銘を受け、人生は長丁場、いいときもあれば悪いときも必ずあるというわけで、気持ちがすうっと落ち着いたのです」と語っている。

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 十段戦で加藤を破った中原はわずか3ヵ月で無冠を返上。そして1985年には、自身にとって通算10期目の名人を獲得し、名人復位を果たした。その後、名人は通算15期まで獲得を伸ばしている。名人を10期以上獲得した棋士は、通算18期の大山と15期の中原、この2人しかいない。

写真提供:日本将棋連盟

「強い相手にこそ積極的に」

 改めて現在の棋界について考える。四冠を持つ藤井聡太竜王と、三冠をもつ渡辺明名人。年明けには両者の対戦となる王将戦七番勝負が始まる。まさに頂上決戦だ。王将戦以降も棋王戦、名人戦と渡辺が持つタイトルの戦いが相次ぎ、そのあとは藤井の持つタイトル戦が回ってくる。向こう1年はこの両者が存在感を発揮することは間違いない。

 そこへ待ったをかける有力候補が豊島であることも間違いのないところだろう。

「縮こまって負けると悔いが残るので、強い相手にこそ積極的に向かい、あきらめない姿勢を示せたのはよかった。いい形で終われたので、今後につなげていければ」

 藤井との対局を戦い終えた直後の豊島が発した言葉である。