だからこその街宣なのだという。
さらに彼はこう続けた。
「芝園団地を調査してわかったのは、もはやシナ人の自治区になってしまったということ。日本人住民の影は薄く、シナ人ばかりが幅を利かせている。住民からは治安悪化を危惧する声も聞いた。今後もシナ人の増殖が続けば、日本人が足を踏みこむことのできない無法地帯になってしまう」
もともとがゼノフォビア(外国人嫌い)に凝り固まった人物である。それまでにも繁華街で「犬と中国人は入るべからず」などと記された旗を掲げて街宣活動をしてきた。差別と偏見にまみれた言葉は、団地の内実を正確にいい当てたものであるはずがない。
「警告」のように見えるイタズラの張り紙
だが、問題はこうした言説がネットに流布されることで、けっして少なくはない同調者を生んでしまうことにある。
「人種間というよりは、世代間のギャップなんですよ」
私が最初に芝園団地に足を運んだのはこの男性たちが「実態調査」をおこなった直後だった。
確かに団地内には「中国」があふれていた。
中国語が併記された看板や張り紙。日本語がほとんど通じない団地商店街の中国雑貨店。飲食店のほとんども中華料理店だった。子を叱る母親の声も井戸端会議も、耳を傾ければ飛び込んでくるのは圧倒的に中国語が多い。
公園で談笑していた中国人の母親グループに声をかけると、弾んだ声が返ってきた。
「ここには友達もたくさんいる。とても住みやすいです」
一方、団地内を歩いていると、掲示板に次のように記された張り紙があった。
警告 不良支那人・第三国人 偽装入居者(不法)
強制送還される前に退去せよ
太字の黒マジックで殴り書きされたような張り紙の文字からは、憎悪と差別の“勢い”が見て取れた。いかにも団地の管理事務所が貼り出した「警告」のように見えるが、実際は何者かによるイタズラである。
中国人コミュニティの間で広まる“芝園人気”
旧知の中国人ジャーナリスト・周来友によると、芝園団地で中国人住民が目立つようになったのは今世紀初めくらいだという。
「中国人住民の多くは日本の大学を出て、そのまま日本企業に就職した会社員とその家族です。芝園団地は都心に近く、家賃に比して間取りも悪くはない。何よりもURは収入基準さえ満たしていれば、国籍に関係なく入居できます。民間の賃貸住宅は外国人に対しては審査が厳しいし、なかには露骨なまでに差別的な対応をされてしまうこともある。そうした点、公共性のあるURならばそうした心配はありません。こうしたことが中国人コミュニティの間で広まり、都心の企業に通勤するホワイトカラーを中心に、“芝園人気”が定着しているのです」