かつて、庶民の憧れの住まいとして人気を博した団地だが、現在となっては少子高齢化や暮らしの変化の影響から、「限界集落」になり果てている場合も珍しくない。そんな団地のなかで、中国人住民の割合が高く、活気のある団地として全国的に有名なのが埼玉県の芝園団地だ。

 日本人住民と中国人住民の摩擦が起こっていると紹介されることも多い同団地だが、その実態はどのようなものなのか。ここでは、外国人実習生や排外主義者の問題を追い続ける安田浩一氏の著書『団地と移民 課題最先端「空間」の闘い』(角川新書)の一部を抜粋し、紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

※記事には差別主義者の言葉を引用していますが、そこにはヘイトスピーチが含まれます。ご注意ください

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ゼノフォビアの人物

 2010年の春だった。芝園団地に「排外主義」を主張する約20名のグループが押し掛けた。在特会幹部を含む彼らは「排害」と記された小旗を掲げ、「侵略実態調査」と称して団地内を練り歩き、あたりかまわず写真を撮っては、それをネットにアップした。

写真はイメージです ©iStock.com

 ブログ記事には「支那人による人口侵略の最前線」なる見出しのもと、次のような記述が続いた。

 彼らが支那・朝鮮人が自らの文化に沿った生活をすることによって日本人の生活が破壊される……これは芝園団地に限らず、埼玉県をはじめ東京都や神奈川県など日本各地で頻発している文化間の軋轢・衝突であり、これを増長させることが遠からず全ての日本人の生活・安全を破壊する「安全保障上」の問題であり、支那・朝鮮人らによる「侵略」であることが分かろう

 一見は閑静に見えるマンション建物内では絶えず所々で問題が頻発しており、支那人が存在する限りはいずれより大きな形で、より深刻な事態が到来し、やがて辺り一帯が九龍城と化すのも時間の問題であることをうかがわせた

 このグループを率いた男性(当時40歳)は、若いころからネオナチ団体に所属し、外国人排斥を訴えてきた。もともとは普通の会社員だったが、日本社会における外国人急増に危機感を覚え、90年代初頭にテレビのドキュメンタリー番組で取り上げられたネオナチ団体に加入した。現在も“外国人犯罪追放”を掲げる団体のリーダーを務めている。

住民からは治安悪化を危惧する声も

 男性は私の取材に対し、“芝園団地攻撃”の理由を次のように話した。

「私が目指しているのは当然、排外主義なんです。日本は確実に外国勢力に侵食されつつある。特に朝鮮人とシナ人の跳梁跋扈は許し難い。外国人でありながら日本人と同じ公共サービスを求め、そればかりか既得権益までつくりだした。しかし政治家も既存の右翼も何ら有効な手を打つことができないでいる。だからこそ我々だけでも明確に排外主義を打ち出し、危機感を持って対峙するしかない」