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「お金をあげるからバス停からどいてほしい」

捜査車両に乗せられ、代々木警察署に入る吉田容疑者は終始、正面を見据えていた。調べに対して「まさか死ぬとは思わなかった」と説明。捜査1課も殺意は立証できないと判断して傷害致死容疑で逮捕した。吉田容疑者は以前から大林さんの存在を認識していたようで、その日もレジ袋にペットボトルを入れて自宅から散歩に出かけた際、大林さんを見つけていた。散歩途中に中身を飲んだらペットボトルが軽くなったため、大きめの石を拾って袋に入れたという。

「前日の未明に『お金をあげるからバス停からどいてほしい』と頼んだが、応じてもらえず腹が立った。痛い思いをさせれば、いなくなると思った」

 吉田容疑者は動機についてこう語っている。

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現場のバス停 ©文藝春秋 撮影・細尾直人

 吉田容疑者は自宅マンションの1階にある家業の酒店を母親と切り盛りしていた。近所の住民が語る。

「若い頃にいったん就職したけど精神を病んでしまって辞めたらしい。お父さんを3年ほど前に亡くしてからは、一生懸命働いてお母さんを守っていた。母親想いで真面目という印象だったので、まさかと驚いています」

「自宅のバルコニーから見える世界が自分の全て」

 一方で吉田容疑者にはクレーマーとしての一面も垣間見える。別の住民はちょっとしたトラブルに巻き込まれた。

「私が自宅用のテレビのアンテナを設置したら、吉田容疑者の気に障ったらしく、『自宅のバルコニーから見える世界が自分の全て。景色が変わってストレスだ』と苦情を入れられた。神経質で、夜間によく徘徊していましたよ」

 吉田容疑者は「ボランティアで街のゴミ拾いもしていた」という近隣住民の目撃談もあるが、大林さんは「自分の街を汚す異物」でしかなかったのだろうか。

写真はイメージ ©iStock.com

 現場のバス停は、雨露をしのげる程度の屋根の下に、2人がけのベンチがあるだけだ。大林さんがどのような経緯でここにたどり着いたのかは明らかになっていない。近所の人たちが大林さんを見かけるようになったのは今年の春ごろだという。

「おかっぱ頭で身長は150センチくらいかな。バスの運行が終わった深夜に来てはベンチに座って仮眠して、始発便までには新宿方面に向けて立ち去る。周囲に迷惑をかけたくなかったのかな、トラブルは起こさなかったよ。通行人に『こんな所で寝ていたら風邪を引きますよ』と声をかけられても『大丈夫』と答えていたね」(近くの飲食店関係者)

 別の近隣男性は「キャリーバッグを引いていて、いつ見ても違う服を着ていたよ」と話す。上着や手袋、マフラーを渡そうとした人もいたが、受け取らなかったという話も聞こえてくる。