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「いま考えれば絶対ちがうやりかたしてたんやと思うけど、あんときはあれしかなかったんやと思う。いつもやってるbaseのノリみたいなんを、無理して顔引きつらしてやってんねんけど、誰も自信もってやってないから、変な感じになったんは覚えてる」(大悟)

 では、実際のところどうだったのか。答えはCLUBのなかにある。「クラシック」として配信されている「baseよしもと芸人」で、2人が「ひどかった」と述懐するその初登場回が確認できる。それを見ると、いまの千鳥との距離が感じられるかもしれない。逆に、当時からほとんど変わっていない笑い飯のビジュアルや雰囲気も確認できるかもしれない。

「baseよしもと芸人」 提供:テレビ朝日

 また、Pラジオの千鳥ゲスト回では、加地EPが千鳥を見直すきっかけとなった「大阪だより」(2010年)や、千鳥が吹っ切れる契機の1つとなった「帰ろか…千鳥」(2014年)などに話が及んでいるが、これらの回も配信されている。それを見れば、加地EPが指摘するノブの岡山弁の変遷も客観的に確認できるだろう。なぜ若手時代のノブが大阪弁に寄せていたのか。その理由ももちろん、Pラジオで大悟により語られている。

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「CLUB」に見る、芸人たちのターニングポイント

 もちろん、まだまだCLUBのコンテンツに見どころは多い。「ひな壇芸人」の回に品川祐が込めていた怒りと皮肉。麒麟の川島明が現在のような芸風に変わるひとつのきっかけとなったという「運動神経悪い芸人」での明朝体のテロップ。「中学の時イケてないグループに属していた芸人」に出演するとしゃべりの面白さがフィーチャーされ、発言テロップに彼専用のフォントがあてられていた博多大吉。さまざまな動画のなかで芸人たちから名前があがる東野幸治――。

「中学の時イケてないグループに属していた芸人」 提供:テレビ朝日

 自身のターニングポイントとなった出演回をふりかえる芸人たちのトーク。そして、それに対応する実際の番組映像。私はいつしか、その両者を往復していた。動画と動画のあいだに張られた見えないリンクを見つけてたどっていた。そして、その宝探しのような面白さ・楽しさに駆動され動画を漁っていると、芸人たちの現在の立ち位置が、いつのまにかより厚みをもって立ち上がってきた。

 それは、芸人たちの言葉をヒントに過去を読み解いていく、アドベンチャーゲームのようでもある。あるいは、『アメトーーク!』自体をこう言ってもいいかもしれない。その20年近くの放送は、2000年代以降のバラエティ番組、あるいはそこで活躍するお笑い芸人の一大叙事詩である。そこには、ひな壇、団体芸、負け顔、趣味語り、世代交代、解釈芸――『アメトーーク!』がひとつの中心となって発信してきた、近年のバラエティの変遷がある。そして、そのあいだをサバイブする数多の芸人たちのターニングポイントがある。CLUBは、そんな膨大な叙事詩を解読するための格好の手引きなのだ。

 もちろん、過去をふりかえるだけではなく、未来に向けた発信も多い。特に、「スペシャル企画」内の「ヨシモト∞ホール」や「よしもと漫才劇場芸人」は、劇場を中心に活躍し、少しずつテレビ出演も増えている現在の若手芸人にスポットをあてたくくりトークだ。そこにはかつての千鳥がいる。あるいは未来の千鳥になるきっかけがある。その意味で、CLUBは手引きにとどまらず、新たな叙事詩が紡がれる場でもある。

 少し大げさに表現してしまったかもしれない。「叙事詩」とか、気取った言い方かもしれない。けれど、CLUB内に配信されているコンテンツからは、近年のバラエティ番組やお笑い芸人が積み重ねてきた地層が感じとれる。それは確かなことのように思われるのだ。