ロシアがウクライナに軍事侵攻してから2カ月以上が経った。ロシア軍による激しい攻撃が続くが、ウクライナは米国の軍事支援を受けて徹底抗戦の構えを崩さず、攻防は長期化している。

 そうしたなか、米中対立を早期から予言してきたシカゴ大学政治学部のジョン・ミアシャイマー教授(74)が「文藝春秋」のインタビューに応じ、「この戦争の最大の勝者は中国」と警鐘を鳴らした。

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 ミアシャイマー教授は米陸軍士官学校(ウエストポイント)を卒業後、5年間の空軍勤務を経て、1982年からシカゴ大学で教鞭をとってきた。大国間のパワーバランスを徹底したリアリズムで分析する「攻撃的現実主義」の旗頭として知られ、世界で最も注目される国際政治学者の1人である。2001年に著した『大国政治の悲劇』では、中国の平和的な台頭はなく、米中は対立すると予想。近年それが現実となったことで、脚光を浴びた。

 ミアシャイマー教授が今回の戦争について日本メディアのインタビューに応じるのは初である。

西側がロシアを追い詰めた

 まずミアシャイマー教授は、ウクライナ戦争における西側諸国の責任を指摘する。

「米国をはじめとする西側の圧倒的な見方は、『全ての責任はプーチンにある』『プーチンは拡大主義者であり帝国主義者だ』というものです。ただ、この考えは完全に間違っているし、“西側の作り話”といってもいい。

 もっとも私はプーチンを擁護しているわけではありません。プーチンによる戦争遂行方法に責任があることは否定しません。

プーチン大統領

 しかしながら、『なぜこの戦争は起きたのか?』という問いに対する私の答えは、西側の対東欧政策が今日の危機を招いたというものです」

 ミアシャイマー教授によると、西側諸国がロシアを追い詰めた決定的な分岐点は、2008年4月、ルーマニアの首都ブカレストで開かれたNATO首脳会議だったという。

「ブッシュ米大統領が主導して、首脳宣言に『(ウクライナとジョージアが)将来的にNATOの一員になることに同意する』と記されました。一方で、ドイツのメルケル首相とフランスのサルコジ大統領はこの声明に慎重な姿勢を示していました。ウクライナとジョージアのNATO入りは、ロシアの国境線までNATOが押し寄せてくることを意味します。それがロシアを強く刺激することを、2人はよく分かっていたのです」

 しかし、ブッシュは2人の反対を押し切り、首脳宣言でNATO拡大を宣言した。その背後には、ブッシュ政権の中枢にいたネオコン(新保守主義者)たちの甘い見立てがあったという。