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「西側諸国、とくに米国のネオコン(新保守主義者)たちは『過去2回のNATO拡大でも問題はなかった。3回目の拡大でも逃げ切れる』と思ったに違いありません。

 だが、不安は的中しました。プーチンらロシア首脳はすぐに『この宣言は我々にとって完全に受け入れられないものだ』と強く反発し、『NATOのウクライナへの進出は自国存亡の危機だ。もう、これ以上(NATOの拡大は)許されない』といった明確なメッセージを発信。そして、『NATO入りした場合はミサイルの照準を向ける』とまで警告したのです。

 それにもかかわらず、米国は東方拡大に深く関与していきました。いわば、米国は熊(ロシア=プーチン)の目を棒でついたのです。怒った熊はどうしたか。当然、反撃に出ました」

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中国への“軸足移動”ができない米国

 戦線が泥沼化する中、「いったい誰のための戦争なのか?」という根源的な問いが浮かび上がる。

 そうした状況を見て、ミアシャイマー教授は「この戦争の最大の勝者は中国」だと指摘する。

習近平国家主席 ©共同通信社

「なぜ、中国が勝者だと考えるのか。第1の理由は、ウクライナのために米国は東アジアへの『軸足移動』(ピボット)ができなくなっているからです。この戦争の前、米中対立が深まる中、米国は中国の封じ込めに全力を挙げていました。バイデン大統領が昨年9月までにアフガニスタンからの撤退を決断したのも、中国を睨んで東アジアに軍事力を集中させるという観点から見れば、全く正しい決断でした。

 しかし今、米国はウクライナに深く足をとられ、欧州から東アジアに軸足移動できない状況にあります。これは戦略的に大きな間違いです」

ロシアを中国側に追いやってしまった

 さらにミアシャイマー教授は、「ロシアを米国側に置くこと」の重要性を指摘する。

「第2の理由は、この戦争によって、ロシアを中国の側に追いやってしまっているからです。現在の国際社会においては米国、中国、ロシアという3つの極があります。このうちロシアにはかつてのソ連のような力はなく、中国に比べれば脅威ではありません。対して、中国は米国の5倍近い人口を擁し、今や世界2位のGDPを誇っています。しかも急速な軍拡をしており、軍事力を背景にした覇権主義も隠していません。ということは、米国はロシアを自分たちの側に置くことが重要なのです。

ジョン・ミアシャイマー教授(シカゴ大学政治学部)

 ところが今、何が起こっているのかといえば、ロシアは米国ではなく中国を味方にしているのです。中国の観点から見れば、ウクライナでの戦争が長引けば長引くほど、東アジア地域の領土拡大に向けた準備を進められ、都合が良いことになる。これは日本にとっても由々しき事態といえます」

 では、日本はこの事態にどのように対処すべきなのか?――日米両国のあるべき姿を鋭く洞察したミアシャイマー教授のインタビュー「この戦争の最大の勝者は中国だ」は、5月10日発売の「文藝春秋」6月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されている。

文藝春秋

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この戦争の最大の勝者は中国だ