1ページ目から読む
2/3ページ目

 石原裕次郎ばりのサングラスをかけ、口ひげをたくわえ、髪はオールバック。煙草を吸い、革ジャンを羽織り、渋い声で「結婚したいなあ……」と呟く。そして結婚相談所に登録し、片っ端からフラれまくるのである。

 たまらなくカッコいい。が、たまらなくダサい……! そんなアンビバレントな魅力でドラマ全体の空間を良い意味で歪ませ、私は一気に彼に親近感が湧いた。

 あのハードボイルドン臭い黒崎が忘れられない。ロスに陥って間もなく、今度は向井理がドSの官能小説家役を演じる『先生のおとりよせ』放送のニュースが飛び込んできたのである。見ないわけにはいかない。またしてもテレビ東京、感謝しかない!

ADVERTISEMENT

「才能はあるけど人として最低」

 いざ観てみると、向井が演じる榎村遥華は想像以上に表情豊かで愛しかった。ドSだが好みの女性にはドM。理屈っぽい。挙動不審。デリカシーゼロ。自分勝手。「才能はあるけど人として最低」という性格である。なのにまったく憎めない。ヘンな向井理最高!

 相棒・中田みるくを演じる北村有起哉も「母性溢れるフェミ男」というクセが強いキャラクター。こちらも素晴らしく、二人のやり取りは、まるで理屈屋の息子と大人げない母のようで、不思議と癒される。

向井理 ©時事通信社

 また、編集長役の橋本マナミの静かな女王様ぶりも出色。向井と橋本とのドラマでの相性は滅法良く、彼女と共演すると一気にハードボイルド小説感が滲み出るのも面白い。

 ただ、放送時間が深夜なので、まさに飯テロ。お腹が空いて空いてたまらない。Amazonプライムビデオでも配信されているので、こちらで食事前に観るのもオススメだ。

「変人路線」は朝ドラから始まっていた

 思い返してみれば、彼の「変人路線」は、2010年の朝の連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の村井茂役、2016年の朝の連続テレビ小説『とと姉ちゃん』の鉄郎役ですでに開花の兆しがあった。

 特に『とと姉ちゃん』は高畑充希演じる常子の叔父役なのだが、借金大魔王でなにかと厄介事も運んでくるダメキャラ。時々すごく頼りになるところは見せる。でも結局またやらかす……という繰り返し。

 面倒臭い現代版寅さんという感じで「向井理がこんないいかげんな役をこんなに魅力的に演じるとは」と驚いたものだった。