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歴史的価値は評価されなくても「富士山、五重塔、桜」は最強

 この駅からアプローチできる高台にある新倉富士浅間神社から眺める富士山と五重塔、そして桜をバックに自らを撮影するのが彼らにとってのThis is Japan!!である。ところがこの五重塔は戦没者を慰霊する目的で昭和37年にできた鉄筋コンクリート造の五重塔。歴史的価値としては日本ではほとんど評価されないだろう。しかし、富士山、五重塔、桜は、タイ人からみれば十分にニッポン的なものであり、この際五重塔の由来などはどうでもよい話なのである。

日本人は知らない──外国人が殺到する山梨県下吉田駅の“最高にニッポン的”な風景 ©iStock.com

山口県で人気なのは「明治維新もの」より昭和30年に分霊した海辺の神社

 インバウンド数が隣県の福岡や広島に遅れをとってきた山口でも、「明治維新もの」が外国人にイマイチ受けないいっぽうで、最近同県の長門市油谷にある元乃隅稲成(もとのすみいなり)神社の人気が徐々に上がってきているという。これは海岸の断崖に向かって赤鳥居が延々と100mほど続くその姿がインバウンド客に口コミなどを通じて広まっているものだが、神社の歴史は浅く、謂れとしては白狐のお告げによって昭和30年に島根県の津和野にあった神社を分霊したにすぎないものが、インバウンド客の目からは新鮮な「ニッポン的な風景」に映るらしい。

山口県長門市油谷の知る人ぞ知る元乃隅稲成神社の断崖に向かって並ぶ123基の赤鳥居 ©共同通信社

 旅行サイトであるトリップアドバイザーが調べた外国人が行きたい日本の観光スポットを見ると、京都にある「嵐山モンキーパークいわたやま」や長野にある「地獄谷野猿公苑」といったところのニホンザルは大人気だし、新宿にある「ロボットレストラン」、大阪の「ビデオゲームバースペースステーション」など日本人のほとんどは耳にしたことがないようなスポットが上位にランクインすることには驚きを禁じ得ない。

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インバウンド客は「おもてなし」を求めているわけではない

 つまり、インバウンド客は日本人の上から下への「おもてなし」を期待して日本にやってきているわけではない。彼らの中には日本に対する一定のイメージがあらかじめ備わっているともいえ、そのイメージに現実がぴったりあてはまると彼らは喜びの声を上げ、「おう、ニッポンって素敵、ワンダフル」になるのだ。

 それをわかったような「おもてなし」や礼儀作法、日本の伝統や文化をインバウンド客にどんなに「したり顔」で話したところで彼らには念仏を聞かされているようにしか聞こえないし、日本人が愛するふぐの薄造りは彼らには「なんだか酸っぱいだけの味気ないサカナ」としか感じてもらえないのだ。インバウンド商売にも「郷に入れば郷に従え」の格言が必要のようだ。