珍事件その4:高級住宅街での“スパイ”大作戦
――手順では、イレギュラーなお願いをされることもあるんですか。
山川 高級住宅街のご主人が自宅療養中に亡くなった際、奥様が、近隣住民にそれを隠したがる、というケースはありました。
――いわゆる「家族葬」「密葬」というわけではなく。
山川 こぢんまり、というわけではなく、完全に秘密にしたい。話を聞いていると、保険もあるし、すぐに生活に困るわけではないけれど、主がいなくなった後、自分が憐れみの目で見られるのではないか、という怯えがあるようで……。
――でも、火葬はしなくてはならない。
山川 そうなんです。でも、ご遺体を火葬場に移動するのも、絶対に人に見られたくないと。そこで、深夜2時ぐらいに、黒服ではなく普通のスーツでカモフラージュしたスタッフを駐車場や出入り口に配置して、スパイ映画のように無線で「今通行人いません!」「こちらスタンバイOKです!」とかやって。
珍事件その5:「棺桶から生き返ったら……」アンサーは
――お葬式は、仏式だけでなく、いろいろな宗教の方に合わせてプランを考えるんですよね。
山川 相談に乗ることはあります。どうしても、火葬など実務の部分が出てきますので。お葬式自体はその宗教の会館でされることが多いようですが、一度、「亡くなったお母さんが生き返ったらどうしたらいいか」と相談されたことがあります。
――なんとお答えしたのでしょう。
山川 あくまでも冷静に、「では、生き返られた時には会場内にお席を一つ足して、そこに座っていただいて……」と。それで安心していただけたようでした。
――落ち着いて、対策を提示する。
山川 そうですね。驚いたり、相手のことを否定したりしないことがポイントです。
――大抵のことにびっくりしなくなりそうです。
山川 それはありますね。30年続けてきてわかったのは、大抵のことは「なんとかなる」ということです。
以前、3階の式場から、ご遺体の入った棺を持ってエレベーターで下へ降りようとしたら、途中でエレベーターが停まって、閉じ込められてしまったなんていうこともありました。
――大変!
山川 火葬場って、棺が到着しなくてはいけない時間が決まっているんですね。なのに、時間はどんどん経っていくし、非常用ボタンを鳴らしても誰も来ない。焦るなか、時間ギリギリに修理の人が来て、やっと出て、大変申し訳ありませんってご遺族に頭を下げたら、「おじいちゃん、焼かれるの嫌がってるのね」って。とっさにそういう一言を言えるのはカッコいいし、救われましたね。