葬式には、人の本性が出る。人の死には遺産や相続がからむため、会ったこともない親戚や愛人が出てきて、式場でナマナマしい喧嘩を繰り広げるといったことも、葬儀屋にとっては珍しい光景ではない。

 キャリア30年。これまで取り仕切った葬儀の数は1000件を超える山川芳純さん(50代、仮名)が直面した「忘れられない珍事件」とは?(全2回の2回目/前編を読む)

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珍事件その1:60代男性からの「突然の自殺相談」

――最近だと終活の事前相談は、結構ありますか。

山川 あります。なかには、「自殺」の相談をされたこともあります。

 ある日、60代後半の男性から電話がかかってきて、70歳になったら死にたいと言うんです。受け答えは理路整然としていて、病んでいるわけではない。自死したい理由は、自分はその頃もう社会に必要とされていないし、若い人の負担になって生きていくのは嫌だからというものでした。それが自分の美学だと言っていましたね。

ベテラン葬儀社員が見た「珍事件」の数々とは ©吉河未布

――現代の悩み、という感じがします。

山川 人生についての世間話をしているうちに仲良くなって、次第に自殺の話も出なくなったので安心していたんですが、最初の相談から3年近く経った頃、夜10時に電話が鳴って。男性の家族からでした。

 その男性が、睡眠薬を大量に飲んで倒れているというんです。聞けば、命は無事だったものの、予断はゆるさない。それからどうなったかがわからず、心配で悶々とした日が続いたんですけど、ある日、「今病院にいます、しばらくしたらお会いしたい」というメールが届いて。

――無事だったんですね。

山川 会ったら、笑顔でものすごく明るいんです。一度実行にうつしたら吹っ切れた、本当に死んだ時には頼むよって陽気に去っていきました。人の気も知らないで……(笑)。

――死に方を考える時代なのかな、とは思わされる出来事です。ところでその人は、今は……。

山川 今も元気で、余生を謳歌しているようです(笑)。

珍事件その2:絶対に噛んではいけない「ヤクザの葬式」

――ところでお葬式にもいろいろだと思いますが、暴力団の方のお葬式とか、すごそうです。

山川 2010年以降、各自治体が「暴力団排除条例」を制定し始めました。自治体によって詳細は異なるのですが、基本的に市民に暴力団と関係を持たせないようにするための条例で、企業は暴力団との商取引を禁じられています。そうすると葬儀屋も一企業ですから、簡単にいえば、建前として、ヤクザ(暴力団)のお葬式をやっちゃいけないっていう話なんですね。

――でも暴力団の方だって人間だから、亡くなるわけで。

山川 そうなんです。葬儀屋にもそれを適用したら、ご遺体はどうするのかという答えがない。また、条例なので警察の取締対象でもなく、結局“黙認”状態です。

――葬儀屋さんが板挟みに。