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「その下着の女性、先生に似ているなあと思ったんですけど」“精神的な殺人”を経験して…漫画家・おかざき真里が共感した“その後の人生”

『あなたに聴かせたい歌があるんだ』 #1

genre : エンタメ, 読書

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 前任教師の産休のため、臨時で雇われた27歳の女性教師。彼女は教室に貼りだされた“ある物”を目にした翌日、突然姿を消した。「皆さんは、今の私の歳に必ずなります」と言い残して――。

あなたに聴かせたい歌があるんだ』(原作 燃え殻、漫画 おかざき真里、扶桑社)は、ある事件の場に居合わせた先生・生徒たちの10年間とその後の人生を描いた、青春群像劇マンガである。

『ボクたちはみんな大人になれなかった』などで知られる作家・燃え殻さんがHuluオリジナルドラマのために書き下ろした原作を、漫画家のおかざき真里さんが漫画化。ドラマの公開に先駆けて「週刊SPA!」で連載され、話題を呼んだ。(ドラマは5月20日からHuluで全8話独占配信中)

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冒頭、掲示板に貼られている“ある物”に、女性教師が気づくシーンは衝撃的。『あなたに聴かせたい歌があるんだ』より

『あなたに聴かせたい歌があるんだ』は、冒頭からいきなり衝撃的なシーンで始まる。授業をしようと教室に入ってきた女性教師が、掲示板に貼りだされた“ある物”に気付き愕然とする。担当編集者の牧野早菜生さんは、女性教師のキャラクターについて以下のように語る。

「ドラマは生徒たちがメインで描かれているのですが、(漫画担当の)おかざきさんは先生のほうにすごく共感したっておっしゃっていました。だから、漫画ではドラマより先生に焦点が当たっていると思います。彼女は教師になる夢を諦めなければいけなかった、そして生徒によるハラスメントのようなものの被害者なんだけれども、被害者で終わらずに、それからも人生は続いていく……という。

 先生の言う『(今幸せかどうかなんて)そんなもの 誰にもわからないわ これからよ』というセリフは脚本にはなくて、おかざきさんがオリジナルで付け足してくれた言葉なんです。ドラマの終わり方も素敵なのですが、漫画のラストのこの言葉もすごくいいなあと思いましたね」(牧野さん)

おかざき真里さんへのオファーの経緯

 脚本を漫画にするにあたって、『サプリ』や『阿・吽』など、多数の代表作を持つおかざき真里さんへのオファーは「ダメもと」だったという。

「燃え殻さんが『週刊SPA!』で連載していた『すべて忘れてしまうから』というエッセイを、おかざきさんが熱心に読んで感想をツイートしてくださっていたんです。いきなりお願いするのは恐れ多い気持ちが大きかったんですが……燃え殻さんと、漫画をどなたにお願いするか相談したときに、これだけ燃え殻さんの世界観に共感してくださっているんだったらダメもとで頼んでみましょうということになって。燃え殻さんからお願いしたら、『じゃあやりましょう』とおっしゃっていただけました」(同前)

アイドルになる夢を諦めた女性が描かれる第4話のワンシーン。『あなたに聴かせたい歌があるんだ』より

「今作は『夢を諦めていく人たち』の話なんですけれども、『夢は叶えなければいけない』や『挫折してしまったらもう人生は失敗だ』といった考えに対する違和感はずっとおかざきさんご自身も持っていたようです。なので、諦めてからもふつうに人生は続くし、それは失敗ではないと丁寧に描かれている作品というところには、おかざきさんも非常に共感してくださいました」(同前)

 事件から10年後、27歳になった生徒たちがそれぞれ自らの夢を見直す節目を経験する。当時の女性教師と同じ年齢になった彼らは、何を思うのだろうか。

「彼らは精神的な殺人に近いようなことをしたわけですもんね。その子たちも自分が27歳になって、自分が女性教師にしたことや、27歳になったときに見える人生の景色がわかってきて、改めて当時のことを振り返るんです」(同前)

 他者を決定的に傷つけてしまうことの苦みを感じる内容でもあるが、実際に今20代後半で選択を迫られている人だけでなく、20代後半から歳を重ねてアラフォーに差し掛かっているような女性教師側の人にも刺さる作品だという。

「『自分の人生は大成功だった』って言える人ってほとんどいないと思うんです。社会的には成功していると思われてる人でも、本人の中には抱えているものがあったりする。成功するためじゃなくて納得するために人生はあるんだっていうことが、1話1話のエピソードに込められている作品です。諦めていく人たちの話だけど、希望があるし、読む人にとって救いになる一冊なんじゃないかと思っています」(同前)

2022年3月24日発売。現在1万6000部(電子含む)

「その下着の女性、先生に似ているなあと思ったんですけど」“精神的な殺人”を経験して…漫画家・おかざき真里が共感した“その後の人生”

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