「文藝春秋」2022年6月号より、朝日新聞記者の太田啓之氏による「シン・ウルトラマンと日米安保」を一部転載します。

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庵野監督の「原点」

「シン・ゴジラ」「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の大ヒットで、国民的な映画作家となった庵野秀明監督が脚本を担当する映画「シン・ウルトラマン」が5月13日、コロナ禍による延期を経て、ようやく劇場公開となる。

 私は40年近く前、自主映画の上映会で、庵野監督の「原点」と言える特撮作品「帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発進命令」を見て衝撃を受けた。なんと、庵野監督が眼鏡をかけた素顔のまま、銀と赤に塗ったジャージと爪楊枝の容器でつくったカラータイマーを着用して「ウルトラマン」を演じるのだ。

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庵野秀明氏(左) ©時事通信社

 しかし、登場するメカニック・怪獣のデザインや特撮技術は本家の「ウルトラマン」作品をも凌駕するほどの水準で、演出やカメラワークは「ウルトラマン」「ウルトラセブン」で異色作を次々と世に問うた実相寺昭雄監督を彷彿とさせる。テーマ曲には、「辺り一面 焼け野原」「街が危ない 死が迫る」などハードな内容の歌詞で本家の「帰ってきたウルトラマン」では没となった、すぎやまこういち作曲の「戦え!ウルトラマン」を敢えて用いるという徹底ぶりだ。

庵野監督はアマチュア時代から『ウルトラマン』を題材とする自主映画を作っていた ©時事通信社

 その結果、見る者は「ジャージとGパン姿のもじゃもじゃ頭のお兄さん=庵野監督が、次第に『本物のウルトラマン』に見えてきてしまう」という驚愕の体験をすることになる。「何が『ウルトラマン』の作品世界を成り立たせているのか」ということを徹底的に分析し、それにこだわることを通じて「『ウルトラマン』という作品の本質は『ウルトラマンのデザイン』抜きでも表現できる」ことを証明してしまったのだ。大阪市で開催中の「庵野秀明展」でもこの作品に関する展示に多くのスペースが割かれ、監督自身の思い入れがうかがえる。

 この「作品に徹底的に没入することによって作品の本質を的確に洞察し、それを踏まえた上で、作品の魅力を新たな形で再創造する」という唯一無二の資質が「シン・ゴジラ」の成功につながり、「シン・ウルトラマン」「シン・仮面ライダー」の企画を生み出す原動力となっていることは疑いない。

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 時代の空気を的確につかみ取り、作品の中に色濃く反映させる資質もすごい。

 庵野監督の出世作となった「新世紀エヴァンゲリオン」が最初にテレビ放映されたのは、戦後50年に当たる1995年のことだった。「エヴァ」は、表面上は「主人公らの乗り込む巨大ロボット(らしきもの)が、正体不明の巨大生物(らしきもの)と戦う」という「よくあるアニメのフォーマット」を踏襲しつつも、実際の作劇では、少年少女、大人になりきれない大人たちの絶望的な孤立、他者との相克が、「これでもか」というほど描かれる。そして物語の背景には、人類滅亡への予感が通奏低音のように響くと共に、すべての人類を他者との愛憎から解放して「絶対幸福」へと導こうとする「人類補完計画」という陰謀が進行する――。