同じ年には阪神・淡路大震災が発生し、麻原彰晃という「象徴」の元に集った悩める青年たちが「ハルマゲドン=最終戦争」を経て、人類の絶対幸福を実現しようとした「オウム真理教事件」が人々を震撼させた。無論、「エヴァ」の企画自体はオウムの事件が明るみに出るはるか以前から始動している。それでも、これだけのシンクロニシティ=共時性が発生してしまうことに、庵野監督の類いまれな資質がうかがえる。
私自身、庵野監督を何度か取材させていただいたが、自らが強く影響を受けた作品たちを語る言葉の一つ一つが「対象について冷静に、的確に、深く考え抜く」という作業を経て発せられていることが、ひしひしと伝わって来た。作品世界にのめり込む「没入」と、作品の魅力を徹底的に分析する「知性」の両輪が、庵野監督の創造力を支えている。
そんな庵野監督が最も愛する特撮作品の1つが1966~67年にかけてテレビ放映された「ウルトラマン」であり、それを現代に復活させる「シン・ウルトラマン」は、本当に楽しみで仕方がない。
「日米安保条約の暗喩ではないか」
と同時に、ロシア軍がウクライナに侵攻し、私たち日本人も「今のままで自分の国を、家族を、自分自身を守れるのか」という問題を考えざるを得ないこの時期に、「ウルトラマン」を題材とした映画が世に出ることについては「庵野作品がまたもや時代と共振しつつあるのか」という思いを禁じ得ない。なぜなら、東西冷戦のさなかに作られたオリジナル版「ウルトラマン」は、これまでに多くの論者から「物語の基本構造自体が、日米安保条約の暗喩ではないか」と指摘されてきたからだ。