「シン・ウルトラマン」に登場する異星人は「外星人」と呼称される。これは「外国人」のもじりだろう。敵対的な外星=外国も存在する中でコスモポリタニズムを貫こうとすることの難しさ、ウルトラマンという「唯一の友好的な外星人」に頼って平和を守ろうとすることの危うさも描かれるだろう。
ただし、作中で人間とウルトラマンとの間に一時的な相克はあっても、「ウルトラマンと地球人の友情」が壊れてしまうことはないはずだ。それは、金城哲夫らが作り上げ、庵野監督自身もこよなく愛してきた「ウルトラマンの世界観」を壊してしまうことにつながるからだ。
しかし、現実世界ではどうか
しかし、現実世界ではどうか。ウルトラマン=米国は、ウルトラマンのように命懸けで日本を守ってくれるのだろうか。東日本大震災の時、米軍は「トモダチ作戦」と称する救援活動を展開した。その一方で、福島第一原発事故にあたっては、日本政府が原発から半径20キロ以内の住民に避難勧告を行ったのに対し、米国政府は、在日米国人に「半径80キロ以内の避難勧告」を行った。さらには「8万人の米軍人の退避計画もつくる」と日本側に通告した。非常時における「友情」のありがたさと危うさの両面が伝わってくる。
今回のウクライナ危機で、米国はウクライナへの物的な支援を強めつつも、実際の派兵へと踏み込む気配はない。「目と鼻の先」が戦場となっている欧州諸国も同様だ。その最大の理由は言うまでもなく、ロシアをさらなる窮地に追い込むことが、ロシアを核兵器の使用へと踏み込ませかねないこと、ウクライナに軍事介入することによって、自国がロシアからの核攻撃の対象となりかねないことを恐れているからだ。
国際社会の大勢はロシア=悪、と見なしているにもかかわらず、正義を実現するために、ウクライナに直接手をさしのべることはできない。なぜなら、私たちはウルトラマンのような「圧倒的に強大な力と無私の心を併せ持つ存在」ではないからだ。いかにウクライナの人々が辛酸を嘗めていようとも、国を、家族を、自分自身を、核兵器の脅威にさらさせるわけにはいかない——。
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朝日新聞記者の太田啓之氏による「シン・ウルトラマンと日米安保」の全文は「文藝春秋」2022年6月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
【文藝春秋 目次】ウクライナ義勇兵を考えた私 芥川賞 砂川文次/日米同盟vs.中・露・北朝鮮/老人よ、電気を消して「貧幸」に戻ろう! 倉本 聰
2022年6月号
2022年5月10日 発売
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