そして、ベルーナドームはサステナブルに雨を乗り越えた
この日の雨は短時間でおさまり、嘘のように青空が広がりました。山の天気は変わりやすいもの。女心と秋の山。おかげで球場内の観衆たちも濡れネズミにはならずに済みました。雨上がり、改めて場内を見回りますと、雨と上手につきあう運営スタッフたちの姿が見られました。
球場外周部に設置されていた売店のワゴンやガチャガチャの台は雨が当たらないように場所を動かしたり、ビニールシートで覆われたりしています。屋外に置かれていた在庫品や段ボール箱は素早く売店内に放り込まれ、ドリンク売店のスタッフさんは片手で傘をさしながらドリンクを売っていました。そうです、雨が降ったら雨宿りすればいいのです。屋根だの壁だのエアコンだの、ないものねだりをするのではなく。
風で飛ばされないように一旦剥がされたスタメンを表示するボードは、雨上がりにはすぐ戻されました。ベビーカー置き場では、濡れたベビーカーをタオルで拭くスタッフさんたちの姿がありました。球場外周部の立見席では、スタッフさんがタオルでテーブルを拭いてくれていました。一番雨が当たりやすい球場外周部の立見席のテーブルを金属製にしたのはナイスだなと思いました。さすが、水に強いサーモス。濡れたら拭けばいいのです。
テーブルを拭くスタッフさんを見て、僕はさらに驚きました。雨を拭くその手には2020年のファンクラブ入会記念品だったバスタオルが握られていたのです。2020年のシーズンオフにはLポイント(※西武の楽天スーパーポイントみたいなもの)で交換できるようになり、何とか在庫をさばこうさばこうと必死だったあのタオルが、2022年の雨の日に大活躍していたのです。もはや売ったり配ったりすることも憚られる「2020」のプリント入りタオルは、「雨の日に使える」ということで今も大切に保管されていた。
僕はその光景を見たとき感動しました。この球団は限りある資源を大切に使うサステナブル球団なのだと、改めて誇らしくなりました。余ってしまった配布品のタオルも、売れ残った応援用タオルも、いなくなった選手のタオルも、誤植で回収したタオルも、雨の日にはまだ活躍できるのです。ベルーナドームが雨で濡れるスタジアムだからこそ、かわいそうなタオルたちはもう一度活躍することができたのです。タオルは滅びない。何度でも甦るさ。このスタジアムが雨降りドームである限り!
世のなかには素晴らしいドームがたくさんあります。「日本六大ドーム」と名高い東京ドーム、京セラドーム大阪、札幌ドーム、バンテリンドーム、昭和電工ドーム大分、福岡PayPayドームのような、科学技術による快適さを実現したドームもよいものです。しかし、どんなに素晴らしいドームがあっても、人間は自然から離れては生きていけません。土に根を下ろし、雨と共に生き、雪と共に冬を越え、烏と共に春をうたう、そんなドームがあってもいいのではないでしょうか。
さぁ、出掛けましょう、ベルーナドームへ。
タオル、カッパ、折り畳み傘をカバンに詰め込んで。
いつかきっと出会う、ドームのなかに降る雨を楽しみに……。
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