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広瀬すずの「大衆からの距離感」

 李相日監督の『怒り』以降、広瀬すずは日本映画界の階段を駆け上ってきた。テレビでは連続テレビ小説の記念すべき100作目のヒロインをつとめ、演劇では初舞台での紀伊國屋演劇賞個人賞受賞という賞の長い歴史で初めての栄誉を受けた。

 テレビドラマ出演ではNHK、日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、そして映画出演作では東宝、松竹、東映、ワーナーと、まるで挨拶回りをするように各社の作品に出演している様子が、ここ数年の出演歴には刻まれている。

 演劇、テレビ、映画という三大メディアすべてから称賛され、吉永小百合という日本映画界のアイコンと共演し、若手女優を代表するシンボルに押し上げられながら、広瀬すずはまるでその賞賛の雨を避ける傘をさすように、『怒り』以降長編映画を発表していなかった李相日監督の思い出話に立ち戻る。まるでメディアが作り上げる自分の神話、ストーリーを自ら否定し解体するように、広瀬すずは何度も李相日監督との沖縄ロケの思い出を語ってきた。

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 それは謙遜や称賛への照れというより、メディアや大衆の大きな力から自分を守ろうとしているようにさえ見えた。

広瀬すず ©getty

 日本のスターダムの中心にいる広瀬すずと、日本映画界の異端にいる李相日監督には、大衆の共感から距離を取るという共通点がある。

人に共感されたいと思わない

「私、理解してほしいとか共感されたいとかいう願望が全然ないんです。むしろ理解されない作品が好き。だから、出演できてとてもうれしかったです」

 朝日新聞のインタビューで、『流浪の月』が扱う誘拐事件の犯人とされた者とその被害児童の交流というテーマが理解されず社会の批判を浴びる可能性、それも覚悟して出演を決めたのかという問いに広瀬すずはそう答えている。

 広瀬すずが「共感」という言葉から距離を取るのはこのインタビューが初めてではない。この記事が掲載される頃にはもう次の号が街に並んでいるかもしれないが、日本中の駅に並ぶフリーペーパー『HOT PEPPER』の6月号で、彼女はこう語る。

「怒ることもありますが、人前では出さないですね。(中略)誰かに怒ったとしても、それを別の人に共感してもらいたくないんですよ。自分が怒っただけなのに、その相手が別の人にまで悪く思われるのに違和感があって」