6月15日、新宿バルト9の大スクリーンの前に用意された2つの椅子に腰掛ける李相日監督と広瀬すずの2人を、長い物語のクライマックスを見るような気持ちで見つめていた。
映画『流浪の月』の取材記事で何度となく書かれたように、監督と主演女優である2人の間には、2016年に公開された映画『怒り』から始まる長く奇妙な関係があるからだ。その2人が司会すら交えず長く話すのは、今作のプロモーションを通じて初めてのことになる。
沖縄の海で叱責されたことを、何度も語る広瀬すず
2016年と2022年は単に点と点で繋がっているわけではない。『怒り』の公開が終わったあと、広瀬すずはほぼ6年にわたって、他の映画監督の作品の取材現場で李相日監督の名前を出し続け、沖縄の無人島の海で彼と撮影した映画の話を繰り返し語り続けてきた。
是枝裕和、岩井俊二、三池崇史、坂元裕二、そして演劇の野田秀樹といった日本を代表するクリエイターの作品に出演し、雨のように賞賛を浴びながら、気がつくと広瀬すずは沖縄の海で李相日監督に叱責された話を楽しそうに話し始めるのだ。
岩井俊二の『ラストレター』の舞台挨拶で、「李相日監督から『怒り』の撮影後に辛辣な批判を書いた手紙をもらった」と話す広瀬すずの言葉は、朝のニュースショーの早朝の部分で流れただけで、他ではほとんどカットされていた。
無理もないことに思えた。岩井俊二という世界的監督が広瀬すずの素晴らしさをメディアに向けて話している時に、当の広瀬すずが他の監督に徹底的に批判された話をし始めるのはあまりにプロモーションとして奇妙だったからだ。