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ヤクルト元ドラ1左腕・竹下真吾に見る“制球難”のゆくえ

文春野球コラム ウィンターリーグ2017

2017/12/23
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注目もされずに去っていったドラ1

 昨年7月の鎌ヶ谷で、中継ぎだった竹下が先発で投げた。その日は直球もスライダーも素晴らしくよく決まり、ヤクルトの選手をよく知らないCSの実況解説に絶賛されたことがある。その称賛ぶりに笑ったが、心の底ではそれこそが彼の本来の姿だと信じていた。

 2014年のドラフトは失敗だったと言われ、既に2人が戦力外になっている。今年ダメならもう最後。そんな雰囲気がずっと漂っていた。しかし結果は出ないまま、10月1日。鎌ヶ谷のイースタン最終戦で竹下はマウンドに上がった。その日の彼は、四球はなかったが暴投1を記録している。それがヤクルトでの最後のマウンドになった。

 失敗を繰り返し、投げては酷評されていた竹下真吾。それでもヤクルトファンは、罵声を浴びせることは少ない方だ。8月の神宮イースタン戦で屋宜や菊沢が打たれまくり、1つのアウトを取るのに苦労した時も、罵声はなく「腕を振れ!」「頑張れ!」という励ましの声ばかり聞かれた。ファームより下はない。ここで駄目ならもう駄目だ。しかし、二軍を見続けている人達は、「こいつ駄目だな」と言いながらも、そこから這い上がる姿こそ見たいのだと思う。

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 トライアウト参加予定選手のリストに、竹下真吾の名はなかった。制球難のドラ1は、注目もされずに去っていく。どこかで野球を続けてくれれば、という思いは残るが、彼も数多のうちの一人に過ぎないのだ。

 ウィンターリーグのロッテ・島投手は、球が手を離れた途端、思わぬ方向に飛んでいく。竹下にも「ストライクはおろか振れそうな球が1球も来ない」という時期があった。島の状態はこれだけ顕著なのだし、既にケアはされているはずだが、台湾での荒療治は吉と出なかった。制球難に「こうすれば治る」という方程式はない。原因も、経過も、結果も人それぞれだ。「イップス」と名が付こうが付くまいが、キャッチボールから一つひとつ、投げながら直しながら進んでいくしかない。

 人知れず苦しむ者は多いが、人知れず克服した者もまた数多い。高卒1年目の島孝明には、まだ時間がある。

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