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知らなくてもいいことを知っていると世界の見え方は変わる

――斎藤茂吉論などはまさに人文学の王道だと思うんですが、今、文学部廃止論だとか、人文系の学問は必要なのかみたいな議論もあります。現役東大生であり、クイズプレーヤーであり、様々な分野に関心を持っている鈴木さんは、そのあたり、どんなふうに考えていますか?

 

鈴木 「理系が重要で、文系は実学に結びつかない」っていう論調は私もよく耳にします。たしかに、人文系学問が生み出すものって金銭的な価値で見出しにくい部分もあると思いますし、あえて極端な言い方をすれば、別に知らなくても生きていけるよね、っていう世界でもあると思うんです。クイズだって同じで、知らなくていいことを答えて競う世界ですよね。たとえば「炭酸飲料のペットボトルの、花のような形をした底の部分のことを何という?」みたいな。でも、知らなくてもいいことを知っていると世界の見え方は変わると思うし、世界は広がると思うんです。

――知ること自体に意味があると。

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鈴木 そうですね。もちろん斎藤茂吉には会ったこともないけれど、研究者による最新の茂吉研究の成果を知ることで自分の世界が広がっていく感覚があって、私はそこに喜びを見出します。わりと結果ばかりが追い求められる時代で、一見ムダな知識を得ることや、回り道をしながら歩いていくって、大切なことだと思うんです。

 

私にとってクイズに出会ったことは回り道です

――あえて意地悪な質問をしますが、進学校の「筑附」から法学部推薦入試で東大に進まれたこと自体は「回り道」と言えるもんでしょうか? それでも、鈴木さんは回り道が大事だと思いますか?

鈴木 私にとってクイズに出会ったことは回り道です(笑)。高校時代3年間を予備校通いに費やして、東大受験のためにひたすら勉強をする道もあったかもしれませんけど、私は高校生クイズに挑戦したり、バンドやったり、国際交流プログラムに参加したり、私が選べる、私なりの回り道を歩いてきて、今の私があると思っています。

 

――今も司法試験に集中する道だってあるかもしれないけど、クイズやって自主ゼミで銘柄研究して、鈴木さんの選んだ大学生活を過ごされてるわけですもんね。

鈴木 そうですね。回り道する最大のいいところは人と出会えることだと思います。『東大王』に出演させていただいているから、普通だったら出会えない、たくさんの番組作りに携わっている様々な職種の方々とお話することができる。私のようなものが言うのはおこがましいですが、いろんな人と付き合っていくのが人生だし、社会なのだと思います。だから、大学生の今のうちに、もっと回り道しておきたいです。

――ところで、さっきのペットボトルの問題の答えが気になっているんですけど。

鈴木 あ。えーとですね、あれは……「ペタロイド」です!

 

写真=佐藤亘/文藝春秋