全国13万人に及ぶ高校球児たちの夢、夏の甲子園がいよいよ開幕を迎える。今年の夏、猛威を振るう新型コロナウイルス・BA.5は高校球児たちを翻弄した。

 0-21。奈良県大会決勝は、決勝ではほぼ見ることのない大差となった。勝者は夏2度の全国優勝を誇る名門・天理高校。敗れたのは、県立生駒高校。大差がついたのは、生駒がスポーツ推薦もなく、春夏ともに甲子園出場経験もない、まったく無名の県立高校だったからではない。BA.5によって、ベンチ入りメンバー12名の変更を余儀なくされたからだった。「生駒高校の夏」は、どう終わったのか。監督、選手に聞いた(全2回の2回目/#1「0-21 生駒高校の夏」あと1勝で夢の甲子園 その時、チームをコロナが襲ったから続く)。

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1年生ピッチャーが登板「何本打たれてもいいから逃げるな」

 始まった決勝戦、初回から天理打線が火を噴いた。3回が終わった時点ですでに10点を奪われていた。

 センターを守る熊田主将に、何度も打球が飛んだ。

「天理さんは本当に強いなと。『もう何点取られてもいいから、アウトを一つずつとっていこう』とメンバーに声をかけました。ピッチャーには『ナイスピッチ、ナイスピッチ』と声をかけ続けました。最後まで笑顔でプレーすることだけでした」

 1年生ピッチャーは、決勝が初登板だった。北野監督はこう声をかけた。

「『何本打たれてもいいから逃げるなと。とにかく投げぬけ』と伝え続けました。ただ、投げているフォームが普段と全然違って……やっぱり緊張と背負うものが大きすぎましたね。選手たちの緊張感が解けた時が怖かったです。緊張の糸がプツンときれてしまわないように、選手たちの気持ちを奮い立たせることに集中しました」

 4回にはチーム初ヒットも記録し、広がる点差が噓のように全員が最後まで戦いぬいた。

 結果は0-21の大敗。試合後に観客席に挨拶に行った時、笑顔で戦ってきた熊田主将の目に涙が溢れた。

提供 朝日新聞社

天理高の誠意と、会場からの万雷の拍手

「外野を守っていると声援が間近に聞こえるんです。それで最後、挨拶に行って拍手してくれている保護者さんの顔を見るともう……。私の母からは『ほんとによう頑張ってくれた』と言われました。それと最後のバッターになった筒井大翔選手(3年)のお母さんから『あの子が成長したのは熊田君がおったからや』と言ってもらえて。ものすごく感動しました。

 決勝戦は楽しかったです。最後に1点取れるチャンスでフォアボールを選んで、次の3年生に繋げたこと。このシーンが印象深いです」(熊田主将)