野球は草野球のチームやっとった。けど、あんまり入れこまない。釣りも、生け簀みたいなところで、入れ食いみたいのをなんぼでも釣ってた。ま、いろいろやっとったけども、結局のところ楽しめる趣味いうたら、神戸サウナに行くくらいやった。ポカーンとなれるんが好きやった。それで飲みに行って、というのも多かった。ただ、家は空けてなかった。女のところに泊まるとかは一回もなかった。けっこうマイホーム主義やった。
これは博打好きのほかに松太郎(編注:加茂田重政の父)から引き継いだ性格かもしれんが、博打のほかに子煩悩か、子どもの面倒見が良いところがあると我ながら思うわ。前にも言うたけど、松太郎は孫にはものすごく優しくて、仏様みたいな感じやった。喧嘩のさなかも、子どものことが気になるねんな。
地元、ということならばやっぱりわしは番町が居心地ええわ。豪華な家もいらん。一度わしも「カネあるんやし、子どもの教育のことでも考えて、引っ越したらどうや」とまわりが言うから、灘区のほうまで大きな家を見に行ったけど、高級住宅地に住むというんはわしの柄やないし、すぐ止めて引き上げたわ。家やって、大邸宅で部屋がなんぼあるいうても、実際に使う部屋は結局限られるから。
釣りの銀貨は全部息子に「細かいカネの計算はようせんのや」
カネはあれば遣うとった。細かい計算なんかしない。息子が言うには、「クリスマスに靴下に10万円入ってたの俺ぐらいやろ」と。羽振りが良かったんやな。
帰ったらポケットに入ってる銀貨を全部出して、息子に渡して。その代わり、お札とかそんなんじゃなしに、銀貨を全部置いて。それが日課や。でもそれも一カ月にしたら大きい。細かい計算はわからんが。カネの細かい計算はようせんのや。カネがあったら、遣う。あとは子どもにやる。大雑把やけど、これでええやんか、て思う。
わしは、缶コーヒーを結構飲む。缶コーヒーをワンケースで買うて、冷蔵庫に入れておいて、昼くらいに缶コーヒーを飲むのが日課やった。それを繰り返してくと、当たり前やけどなくなる。誰か来たら来たで、「めんどくさいからそれ飲めよー!」て言うて飲ますし。それで、コーヒーがないから「缶コーヒー買うてきてくれるかー」と、これは若い衆とかには言わんで、息子に言う。わしは心配性なんか、なくなったら補充、補充てしとうなって、息子も「わかったー」て。
朝は喫茶店に1000円渡してコーヒーとかとっとるんやけど、で、当然喫茶店からは釣りをもらう。で、「釣りの銀貨が貯まっとるから、それで買うてきてくれ」と。「銀貨が貯まってるし、銀行持ってくのもめんどくさいから」て。で、「ええでー」言わせて行かせたら、それが銀貨でのうて全部10円玉だったというんやな。
ややこしい話やけど、自動販売機にカネを10円玉で入れていったら、一定の時間のうちに入れないとダメらしい。だからがんばって繰り返しても10本くらいしか買えないと。「なんや、そんだけか?」となる。10本も買えなかったんやないか。だから5本だとか6本買うて、他の自動販売機に行って買う。近所の仲間うちだから、向こうも知ってるからね。「若、何しとんのー?」って言われて「コーヒー買いにきよる」て応える。10円玉で買うわけやから、大変やったというけど。
でもまあ、わし豪快で大雑把なことばっかり言うとるみたいやけど、一方で細かいとこもあるで。時間はきっちりしないと嫌やしの。時間にはむちゃくちゃうるさい。人の名前は憶えないんやけどね。
あとは物の位置やね、タバコはここ、灰皿はここ、というような。几帳面なんや。薬もきちっと並べとかんといかん。10円玉とか100円玉とかもここ、テレビでもリモコンはここって。自分で言うのもなんやが、ほんまはものすごく几帳面でな、繊細な面も持っとる。だからどっちがほんまか、自分でもようわからん。豪快な加茂田重政がほんまなんか、でも繊細な面もあるのかと。