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「マジック1からCSで3位に負ける」悪夢

 どうでしょう、あの2010年と2022年とはとてもよく似ていませんか。優勝マジックを1まで減らしたホークスが「勝てば優勝」という試合で延長戦の末に相手方の主砲の一発で敗れ、「それでもまだ優位なのに」勝手に失速して優勝さえも逃したこの流れ。失速のなかで見せた、勝っていたはずの試合を救援陣の被弾でひっくり返されるという負け方。失意のクライマックスシリーズで無欲の3位球団を迎え討つというシチュエーション。まさに2010年をなぞるかのようです。

「マジック1」のホークスを引きずり下ろした10月1日の試合、相手の配球を読み切るように完璧なサヨナラホームランを放ったライオンズ・山川穂高さんは、笑っていました。打席に入る時点から笑顔で、サヨナラ打を放ったあとももちろん笑顔。優勝を争っていたバファローズファンからすると「戦う顔をしていない」とヤキモキする表情だったかもしれませんが、ホークスファンの目にはあの笑顔が焼きついていることでしょう。笑う悪魔がすべてを奪いにやってきた、そんなトラウマとなって。

 2010年のあの日、僕の心に焼きついた「笑う里崎」の悪夢は、2022年「笑う山川」の悪夢となってホークスに襲い掛かるのです。この原稿を書いている時点ではまだクライマックスシリーズは始まっていませんが、この原稿が掲載される日にクライマックスシリーズはファーストステージの第2戦を迎えているはず。手元の新聞におどっている見出しは「悪夢のホークス」「痛恨の被弾」「二冠王に無用な勝負挑む」「チャトウッド不在大きい」「今日にも敗退決定」あたりではないでしょうか。予想するだけで胸がリンディンディンディンディンガリンガディンしてきます。

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 ただ、このように呪詛まみれの不幸の野球コラム(※読んだ人は24時間以内にHITボタンを押さないと推し球団が負ける設定)を綴ってはおりますが、ああいう悪夢もいいものだと心の底から思ってもいるのです。今も残る2010年の強烈な思い出は、それ自体が人生の宝物(※呪われているが)だと感じるのです。何度でも何年でも噛み締めたくなるような思い出は、願っても得られるものではありません。悪夢であっても夢は夢。「悪夢は宝物」なのです。大事にしないと。

 ホークスのみなさんは勝利と栄光の時代を長く過ごしています。かつてはクライマックスシリーズで敗れることの繰り返しで「秋の風物詩」とも呼ばれたものですが、そうした悔しさも過去のものとなっています。勝利の味も中ぐらいになっているのではないでしょうか。僕も長くつづいた旧西武ライオンズの黄金時代には「年間で3割以上は負けてあげないと他球団が暮らしていけない」という舐めた気持ちで過ごしていましたのでよくわかります(※2009年以降は舐めた気持ちを悔い改め、日本一にならない程度に頑張っております)。潮が引いて満ちるように、浮き沈みの波があるくらいのほうが野球は楽しいのです。

 今年はホークスにとって大チャンスの年です。10年経っても20年経っても記憶に禍々しく残る「悪夢」を見ることができるまたとない機会です。我が埼玉西武ライオンズに、ぜひともそのお手伝いをさせていただければと思います。キシシシシ……。シーズン中に一度トドメを刺されたのに、ゾンビのように甦ってきて足を引っ張るライオンズに、ぞんぶんに恐怖していただければと思います。イィッヒッヒッ……。もしこの悪夢を振り払うことができるようなら、さすが球界の盟主と脱帽するほかありませんがね! さぁ、今日で決めるぞライオンズ!

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※「文春野球コラム クライマックスシリーズ2022」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/57429 でHITボタンを押してください。

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