福岡ソフトバンクホークスのみなさま、まずは今シーズンも我が埼玉西武ライオンズと素晴らしい戦いを演じていただきありがとうございます。そして、クライマックスシリーズ進出おめでとうございます。優勝という目標には互いに届きませんでしたが、こうしてクライマックスシリーズに進出できるのは一年の頑張りへのご褒美です。かの東北楽天ゴールデンイーグルスの石井一久監督も言っています。「3位はBクラスと一緒」と。つまり、2位はAクラスなのです。我々はホークスが「A」でライオンズが「B」のABブラザーズ。クライマックスシリーズでの再会を存分に喜び合おうではありませんか。
そんなホークスのみなさまに、もしかしたら生涯記憶に残る素晴らしい思い出をプレゼントできるかもしれません。ライオンズと過ごした幾年月のなかで、僕の心にもっとも強く残る試合と同じ体験を、ホークスのみなさまにも味わっていただけるのではないか、そんな予感がするのです。素敵な贈り物ができるかもしれないぞと、僕は喜びに震えています。笑い声で表現すれば「キシシシシ……」か「イィッヒッヒッ……」でしょうか。不幸の手紙を出すときって、こんな気持ちなのかもしれませんね……!
12年前の秋、「なんじゃこりゃあああ」と叫びながら僕は椅子から滑り落ちた
今から12年前の2010年のシーズンのことをホークスのみなさまは覚えていますでしょうか。あの年、シーズンをリードしていたのは我が埼玉西武ライオンズでした。若干の順位変動はありつつも長期間に渡って首位を維持し、70勝到達もリーグ一番乗り。優勝マジックを順調に減らし「マジック4」の状態で2位ホークスとの直接対決3連戦に臨みました。残り7試合で3.5ゲーム差をつける圧倒的な優位。直接対決でひとつでも勝てば優勝はもはや揺るぎない状況でした。
先発に涌井秀章さんを起用した初戦、ライオンズは順調に得点を重ね5回表終了時点で4-0とリードしていました。正直に言えば「勝った」と思いました。しかし、そこから雲行きは怪しくなっていきました。6回裏に平成の三冠王・松中信彦さんのスリーランで同点とされると、8回裏には勝ち越しを許し、何とか延長戦に持ち込むも延長11回裏のホークス・小久保裕紀さんのサヨナラホームランで痛恨の黒星を喫しました。そこからあれよあれよと3連敗。完全に失速したライオンズは2位に転落し、ホークスが逆転優勝を果たしたのです。
そして、「でも2位だし……」「ここから勝てば……」「i believe lions……」と失意のなかで千葉ロッテマリーンズを迎え討ったクライマックスシリーズファーストステージ。僕は野球仲間(※阪神ファン)を引率し、旧西武ドームにいました。第1戦は緊迫した投手戦から、8回裏にライオンズが「安打⇒四球⇒(バント失敗)⇒四球⇒(内野ゴロ)⇒安打(3点追加/守備乱れ)⇒安打(1点追加)」で勝ち越し、大量4点リードで9回を迎えました。この流れで負けるはずがない、そう思いました。野球仲間と一足早い祝杯をあげました(※予祝)。当時の自分のツイートを振り返ると「ライト前スリーベースワロタwww 勝ったな!」と煽り散らしていました。上機嫌でした。
しかしその直後、ご機嫌は不機嫌になります。9回表、守護神シコースキーさんを投入するも「安打⇒(三振)⇒安打⇒安打⇒安打(2失点)⇒四球⇒(投手交代)⇒安打(2失点)」で同点とされたのです。悪夢のような展開。響き渡るマリーンズ応援団の歌声。笑う里崎。結局、試合は11回表にマリーンズ・福浦和也さんにホームランを打たれ大逆転負けとなりました。大きなフォロースルーでゆったりと振り抜いた福浦さんの一撃は、今までに見たホームランのなかで一番キレイでした。時間がゆっくりと流れ「キレイなアーチだなぁ……」とボンヤリ思いました。あとから野球仲間に聞かされた話では、僕は「なんじゃこりゃあああ」と叫びながら椅子から滑り落ちていたそうです。よほど印象的だったのか、12年経った今でもよくその話をされます。
翌日、僕は再び旧西武ドームにいました。当時の自分のツイートを見ると「今日で決めるぞ!」と軽口を叩くくらいの元気は取り戻していたようです。ライオンズは初回に3点を先制する上々の立ち上がりを見せますが、ジワジワと追い上げられ、わずか1点のリードで9回表マリーンズの攻撃を迎えていました。前日の救援陣炎上を受けてマウンドに送り込まれたのは、まだ打たれる前だった長田秀一郎さん。2022年現在はライオンズで2軍投手コーチの任につく長田さんが投じた初球は、マリーンズ・里崎智也さんによってレフトスタンドに運ばれ、連日の9回同点劇となってしまいます。悪夢のような展開。響き渡るマリーンズ応援団の歌声。笑う里崎。あのときスタンドを見つめながら、踊るキツネにつままれたような顔で首を傾げた長田さんの姿を、僕は忘れることができません。いつか人生が終わりに近づく頃にスポーツノンフィクション『長田の1球』を書く機会があったら、あれは「簡単に打たれたこと」「完全に読まれたこと」「自分が投げてること」のどれに対する首傾げだったのか聞いてみたいものだなと思っています。
延長11回表、マリーンズ・井口資仁さんに決勝タイムリーを浴びたとき、ライオンズの2010年は終わりました。「マジック4」から優勝を逃し、日本シリーズ進出も叶わず、2位という順位さえもあやふやになる没落の秋。後にも先にもあれほどの負けを経験したことはありません。あの年、心が壊れることなくどうにか野球界隈に踏み留まれたのは、ライオンズのあとでホークスもこっぴどく負けたことと、ライオンズを蹴散らしたマリーンズが日本一になってくれたこと、そして池袋の居酒屋で「ロッテあかんすよ!」「何で向こうのほうが客多いんすか!」「福浦と大松の応援歌が名曲過ぎてつい歌っちゃうんすよ!」と当たり散らす僕を、野球仲間(※阪神ファン)が「ロッテはホンマ無茶苦茶しよるで……」「アイツら加減を知らん……」「せめてシーズン1位になってシリーズに来てくれや……」と慰めてくれたからにほかなりません。オエオウするほど飲んだあの夜、忘れがたい思い出です。