逆転負けで落ち込んだ夜。癒やしを求めて2022矢野タイガースを総括する

 これを書いているのが9月20日の深夜。8回ウラに陽川が代打同点ホームランを打ち、その後打線がつながり原口が気迫でレフト前へ勝ち越しタイムリー、さらに佐藤輝もどん詰まりのポテンヒットで2点のリードを奪うも、湯浅を残しながら岩崎が3失点してDeNAに再逆転負けしたあの試合の後だ。簡単に言うとしょげまくっている。

 これで3連敗、今シーズンの「貯金0以下」が確定した。読売、広島との3位争いは、最後の最後までもつれそうだが、厳しい状況になった。もちろん、明日また試合が始まれば、阪神の勝利を信じて応援する。選手たちが少しでもいいプレーをしてくれるよう願っている。それにしても、こう心が折れるような負け方が続くのは苦しい。選手たちも、監督やコーチも苦しかろう。

 私にとって、おそらくこれが「文春野球コラムペナントレース2022」最終登板となる。そこで今回は、傷んだ自分の心を癒やす目的で、「2022矢野タイガース」を総括しようと思う。

ADVERTISEMENT

ドラ1クリーンナップ&高卒ドラ1ローテという「はえぬき天国」

矢野監督

 矢野監督の最大の功績は、金本前監督を引き継ぎ、自前で選手を育てるという方針を貫いたことにある。矢野監督が編成に関してどこまでの発言権を持っていたのかはわからないが、少なくとも選手起用においては金本路線を踏襲して若い選手を積極登用した。

 その結果、はえぬき選手、しかも若い選手たちがチームの中心を占めるようになった。一昔前は、「スタメン野手のはえぬきは鳥谷だけ」という状況だったのを思えば感慨深いものがある。チームは確実に健全化したし、「育つ土壌」ができてきた。

 一時の、3番近本・4番佐藤輝・5番大山の「ドラ1クリーンナップ」は、NPB史上でも珍しい例だろう。また、先の藤浪・森木・西純という「高卒ドラ1先発ローテ」、その次の試合はやはり高卒で3位指名の才木が続いた。こんな「はえぬきパラダイス」を味わったのは長い阪神ファン生活で間違いなく初めてのことだ。

 かなり昔から、井川、藤川など、ごく一部の例外を除いて高卒投手をものにできないのが阪神の伝統だった。それを思えば夢のような出来事。加えてリリーバーには、湯浅と浜地が勝ちパターンに組み込まれて、連日快投しているのだから、こんな画期的なことはない。

 金本前監督が打ち出し、矢野監督が引き継いだ方針に基づき、きちんとした戦略を持ってドラフトで選手を獲得し、練習や試合で育てられるようになった。それは、金本・矢野両監督の信念によって実現したことであり、正しく評価すべきである。

 ことに、強力な投手陣を形成したことは特筆に値する。FAで補強した西勇という大きな存在もあるが、エースの地位にまで昇りつめた青柳を中心に、毎年のように他球団を圧倒する成績を記録しているのはすごい。投手が育つ土壌ができている。

 一方で、矢野監督は得点力と守備力の向上には、大きな成果を示せなかった。特に攻撃の物足りなさは最後まで響いた。盗塁数が他球団に比べて突出して多かったが、必ずしもそれが相手バッテリーへのプレッシャーにつながらなかった。進塁した走者を返せる打者がいない。あるいは、アウトカウントを効率よく使って、ノーヒットでも得点できるような戦術が使いきれない。その結果、多少走者がちょろちょろと進んでも、相手投手が上から見下しているのが見て取れた。