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「『赤紙』のイメージから日本は抜け出せていない」ロシアのウクライナ侵攻で他人事ではなくなった? 三浦瑠麗が考える日本の「徴兵」のリアリティとは

三浦瑠麗インタビュー #2

note

有事には「クレイマー」「便乗犯」「かっぱらい」が出てくる

 それよりも、有事で大切なのは「統治の継続」です。南西諸島が攻められた時に島の全住民をすぐに避難させるのは非常に難しいでしょう。自衛隊は戦闘に従事しなければならないし、地元の消防や警察では人手が足りません。そういった時に、住民を取りまとめて避難経路を案内したり、シェルターでの生活を取り仕切ったり資源を管理する、あるいは国内に潜むゲリラ組織を見つけて通報するような役目は民間がやらなければならない。

 住民それぞれが自分本位で行動しては無用な犠牲を出しかねませんし、それを守る自衛隊にも不要な負担がかかります。こういった必ずしも戦闘を目的としない任務への“徴集”が行われる可能性はありますし、必要なことです。

有事への対応はもっぱら自衛隊に任されている ©️文藝春秋

 日本の有事における統治は非常に難しい。残念なことに、有事では「クレイマー」と「便乗犯」「かっぱらい」が出てくるのが現実だからです。東日本大震災時でも火事場泥棒やレイプなどが横行したこと、より劣悪な環境で働く自衛隊にさえ文句を言う人がいたことから分かるように、日本人は必ずしも公共意識が高い人ばかりではありません。

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統治をお上に任せる“お客様主義”の日本

 税金を払っているんだから自衛隊は身を粉にして支援すべしという“お客様主義”が常態化しているのではないかと思いますね。コロナにさえ民間病院ではなくまず自衛隊の医官を動員しようとするくらいですから。統治をお上に任せることを当然視し、しかもそのことを恬として恥じない日本では、「有事における統治」という誰もがわが身に引き付けて考えるべき課題すら、口にした途端に煙たがられてしまう。

 私が先進国における徴兵制度の導入について論じてきたのは、端的にアメリカを初めとする民主国家の国民が「自分たちは平和勢力だ」と信じて疑わず、軍人だけを戦地に追いやってしまうケースが多々あるからです。戦後日本は戦争こそ起きていませんが、国防のコストについての真剣な議論は他の先進国に比べてはるかに足りません。

©️文藝春秋

 

 たとえばフランスでは、国民の国防意識の低下を問題視して、徴兵制度を再導入しようという議論が左右両極から湧き起っています。徴兵を公的機関での労務提供に読み替えて、若者の失業対策の一環として徴兵導入を提唱する人々もいます。経済的な対価を払いつつ、環境保護活動や難民支援などの必要なマンパワーに充てようとするのが左派の考え方。右派も目的はさして変わりませんが、より訓練を重視し、国防意識の涵養に注力した目標を掲げています。

 日本の場合は災害大国ですから、“徴兵”をやるならば、災害支援の訓練を行うのは有意義だと思います。こういった活動を通して自然と有事に対応する能力は養われますから。

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