2月24日から始まったロシアによるウクライナ侵攻は、開戦から半年以上が経過し、泥沼化の様相を見せ始めている。9月21日にプーチン大統領が「ウクライナ侵攻における国民の部分動員」を発表すると、ロシア国内に大きな動揺が走った。自分も戦地に連れていかれるのではないか、という危惧が国民の間に広まったのだ。
発表の直後、「腕の折り方」という単語がロシアの検索キーワードのトップになり、国外へ逃亡を企てるロシア国民が増えているといった報道がされるなど、国内の混乱ぶりがうかがえる。日本では、太平洋戦争の国家総動員法を連想した人も多いだろう。
「今回のロシアにおける“動員”は主に徴兵で勤務した後に除隊した人々、つまり予備役の一部に対する召集です。もちろんすべての国民が対象になって戦地に連れていかれるという事態にはなっていませんし、総数2500万人いるとされる予備役のうちのごく一部、30万人しか動員しないとしています。それでも、チェチェンやアフガニスタン戦争のときよりも動員規模が格段に大きいことに着目すべきでしょう。戦闘している相手の能力が違いますから。対象は退役将校や徴兵経験者ですが、これまでウクライナとの戦争を闘ってきた軍人たちより能力が劣るであろうことは明白。さらにプーチン大統領は徴兵した予備役を前線での戦闘に放り込むことはないといっていますが、現実にはその約束は守られないでしょう。今回の動員によってこの戦争がプーチンにとっていよいよコントロールできなくなっていることが分かりました」
こう語るのは国際政治学者の三浦瑠麗氏である。三浦氏はかつて文民が軍の反対を押し切って主導する戦争が多くみられることに警鐘を鳴らし、国民が兵役を経験することで戦争へのリスク意識が高まる、として「平和のための徴兵制度」を実現することを提唱した。政軍関係の専門家でもある三浦氏が今回の“部分動員”に見られる戦況を分析し、そして意外と知らない現代の“徴兵制”について語った。(全2回の1回目/続きを読む)
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何百万もの軍人をプールしておくという発想はすでに時代遅れ
今回の部分動員はこの戦争がロシアにとってきわめてコントロールしにくいものになったことを端的に表していると思います。プーチンは当初、局所的な戦闘でキーウを押さえ、すぐに戦争を終える計算だったはずです。だからこそ、「特殊作戦」と呼んできた。
しかし、予想に反して戦果は挙げられず、期間も長引いてしまった。ロシア軍の死者5万人というウクライナ側の発表をまるごと鵜呑みにはできませんが、ロシア政府の公式発表の約6000人よりかなり多い人数の兵士を失ったのは確か。単純にマンパワーが足りなくなってきているのでしょう。
そもそも、大量の兵士を動員する陸上戦を想定した大規模部隊を常に臨戦態勢にしておくことは21世紀のスタンダードではありません。常に何百万もの軍人をプールしておくという発想はすでに時代遅れなのです。