9月21日、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻における「一部国民の動員」を発表すると、ロシア国内は大きな混乱にみまわれる。“徴兵逃れ”のために、自傷行為に走ったり、国外脱出をこころみる国民が続出したのだ。このニュースには、太平洋戦争における“赤紙”を連想した人も多いだろう。

 前編ではロシア政府が国民の動員にまで踏み切らねばならなかった理由、そして現代の「徴兵」が、必ずしも日本人がイメージする“赤紙”のような制度ではないことを国際政治学者の三浦瑠麗氏が解説した。

三浦瑠麗氏 ©️文藝春秋

 それでも、戦争が起きればかつてのような徴兵はかんたんに復活するのではないか? 「平和のための徴兵制度」を提唱し、政軍関係の専門家でもある三浦氏が、リアルな「日本の徴兵」について語った。

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太平洋戦争時の“徴兵制度”の復活はありえない

 万が一、日本で太平洋戦争のような“徴兵制度”が復活するような事態が訪れるとしたら、それは今のロシアのような他国を侵略する国家に日本がなってしまった時です。ただ、それは極めて可能性が低い事態です。

 侵略傾向を持つ攻撃的なナショナリズムは、外に手を広げないと国を守れないと考える傾向があります。ロシアがウクライナに侵攻する時に「在民保護のため」と口にしたように、例えば日本が韓国や台湾の在外邦人やビジネス拠点を守るという名目で侵攻すると思いますか? その場合、侵略に必要な大量の戦力は徴兵で賄うしかないでしょうが、今の時代にそんなことをしたがる人がどこにいるのでしょうか。

「ウクライナ東部を併合」したロシアのプーチン大統領 ©️時事通信.jpg

 日本が侵略国家になるのは考えにくい事態です。ではもっと可能性が高い事態、侵略される側だとしたらどうなるでしょうか。最も考えられうる状況は、他国が南西諸島を侵攻するというシチュエーションです。自衛隊の必死の抗戦むなしく、多くの犠牲者が出てしまった。そして国土防衛のためのマンパワーが足りない――。

 市井の国民を徴兵して兵力を増強するという判断を政府がとりうるでしょうか。おそらく「自衛隊がダメならダメだよね」と白旗を上げることが日本にとっては現実的な判断となるでしょう。ウクライナや韓国と違って陸続きの脅威がありませんから、すぐに首都を占領される危険性は低い。徹底抗戦は本土に危険が及ぶためリスクが高すぎると判断するでしょうし、国民も停戦合意を支持する論調へと流れるでしょう。

 そもそも、「侵略国の本土上陸部隊」なるものが存在したとすれば、それが到着するころには日本の航空部隊は壊滅状態で、通信も遮断された「骨抜き」の状態になっているでしょう。現代の戦争ではまず航空戦力を徹底的に叩き、ジャミング(電波妨害)でレーダー、通信機器、ミサイル誘導機器などが使う周波数を妨害し、丸裸の状態にしつつ陸上戦力を導入するのが常套手段です。そうした攻撃から自国を守るためには、素人を召集して陸上部隊を組織する“徴兵”が日本においてあまり意味をもたないことだとわかりますね。