「プーチンの戦争」に付き合わされる軍をなだめる
ロシアはプーチンの独裁下にあるんだから、軍もプーチンが完璧にコントロールできるんだ、異論は許されないと思うかもしれませんが、そうでもない。中国の人民解放軍が共産党の軍隊であるのと違い、ロシア軍は国軍です。スターリンの時代においても、現代でも、軍をいかに統制するかはロシアにとって引き続き重大な課題であり続けています。だから、時には政府の思惑と対立することもあるでしょう。今回の戦争は明らかに軍の発案ではなく「プーチンの戦争」。実際に、戦争開始直前には大物退役将軍が侵攻反対の声明文を出している。それくらいには自由度があると考えてください。予想外に長引く戦闘で、兵員が窮乏している軍をなだめる意味も、今回の一部動員にはあるのではないでしょうか。
ただ、召集が拡大するにつれて戦争がさらに“汚くなる”危惧はあります。アメリカのイラク戦争も、バグダードを占領し一気に終戦する予定が、あそこまで泥沼化してしまいました。今回のウクライナ侵攻は、2000年代にアメリカが犯した失敗をロシアがまた繰り返しているようにも見えます。彼らはアメリカをあざ笑っていたのに、おんなじ過ちにもっとひどい形ではまっているのですね。
徴兵への反対が戦争を終わらせうる
徴兵を逃れようとして自分の腕まで折るロシア国民が日本で話題になりました。本当にその人たちに召集令状が来るのかどうかは別として、切実なものがあるでしょう。歴史を通して見ても、戦争反対運動のうち最も強力なものは戦時徴兵への反対です。プロが勝手にやってくれる限り、戦争の痛みは自分事にはならない。ロシアもこれまで様々な理由で1年間の兵役を逃れることはできたし、世論調査でウクライナ戦争支持が圧倒的に多いのは、蹂躙されているウクライナの人々の苦しみが他人事だからです。戦争を終わらせるインセンティブがロシア側からようやく出てくるのではないかと期待しています。
ただし、一口に「徴兵」といってもいつの時代でもどこの国でも同じ性質のものではありません。日本では「赤紙」「万歳で出征」「拒否は大罪になる」といった太平洋戦争の記憶が強すぎて、徴兵されると前線に送り込まれる、徴兵されたらおしまいだというイメージがあると思います。各国でふだんから行われている徴兵とは、ロシアのように他国へ攻めていく戦争にあたって急に動員し前線に送り込むようなものではありません。