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徴兵の狙いは、ズブの素人を前線に送ることではない

 それは、徴兵の本来の目的が多くの場合は、ずぶの素人を遠く離れた戦地に送り込むことではないからです。ロシアのように正面から他国を侵略する国はそもそもそんなにいませんが、多国籍軍の軍事作戦や、海外での平和維持活動(PKO)などであっても、徴兵者は動員されないという決まりがある国は多い。有事の際に国民自身が国を守れるように備える、そのために平時から徴兵という制度を用いて国防意識を高め、訓練を施しておく。それが現代の徴兵という制度の本質なのです。

 ウクライナの側に目を向けてみましょう。ウクライナが善戦できているのは、端的に言って軍に士気の高い民間人を補充しているからです。そこへ西側の資金や兵器を送り込むことができている。戦車があってもそれを動かす兵員が居なければ国は守れません。他国を侵略したロシアの戦時徴兵は抵抗運動にあい、自国を防衛するしかないウクライナでは人々が率先して能力に応じた軍務を担う。これこそが、国民に近いところで行われる戦争のリアルです。

©️時事通信社

良心的兵役拒否

 もう一つの日本人が勘違いしがちなのは、徴兵が強制であるという事。世界を見渡しても兵役を断れない国は非常に少ない。ロシアですら国への奉仕活動をすることで兵役に代えることができるんです。良心的兵役拒否とは、先進国にはたいてい備えられており、「自分だけは軍に関わることに参加しない」自由が確保される制度です。多くの場合は代替ボランティア業務などをこなすことで兵役の代わりにできます。

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 数少ない例外のひとつがお隣の韓国です。韓国は38度線で北朝鮮と接しているのでいつソウルに攻め込まれるのか分からないというリスクを常に抱えています。だから一定の年齢に達した男性は必ず軍隊に入らなければなりませんし、実際に戦地への配属もありえます。常に臨戦態勢におかれているシビアな緊張感ゆえのシステムでしょう。

 とはいえ、韓国でも徴兵には通常の兵役に加え補充役や第二国民役など様々な種類があります。中卒で働いている人であれば、体に障害や病気がなくても自動的に補充役となります。この場合、自宅から通える公的機関で勤務することで代替されています。

 では、実際に日本で韓国のような「ほぼ国民皆兵」が復活するかといえば、極めて可能性は低い。万が一、太平洋戦争時のような“徴兵制度”が復活するとしたら、それはいまのロシアのように侵略国家になってしまった時だと思います。(#2に続く

©️文藝春秋

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