勝負強さを作るために
今浪隆博の生涯代打率は.316だ。2016シーズンの代打率は実に.382だった。この勝負強さの秘訣は何なのか。テレビ番組の中では、「作った勝負強さ」だったとも言っていた。
以前、川端慎吾との対談で、今浪は「守備固めのしんどさが100なら代打は1くらいのもの」だと語った。守備の方が考えることが多い。代打はシンプルでただ打てばいいのだと。そのための準備はした上でだし、どんな投手でも打つための技術や読みが優れていることはもちろんだ。だが、気負わず集中することで敵の優位に立ち、勝負強さを「作った」のかもしれない。
昨秋、チーム全体の勝負強さを作れそうな人物がスワローズにやってきた。広島を退団した石井琢朗打撃コーチだ。石井コーチはブログや記事で、広島打線を変えた改革を語っていた。その中では「意識」という言葉が頻繁に使われている。まず意識を変える。打率が3割なら、残りの7割は凡打だ。しかしその凡打も生かし、10割全部使って点を取るという考え方だ。そして凡打でも結果を評価して繋げていく。それを実践してきた。
意識だけで貧打が変わるわけではない。だが、打てないチームは打てずに失敗すると、「打てなかった」「打たなければ」という意識がまたマイナスに働き、負のスパイラルに陥りやすい。厳しい練習で裏付けし、実戦での結果を評価することで成功体験を意識付け、自信と実績を積み上げていく。広島でのやり方そのままではないだろうが、ヤクルトも点を取りに行く姿勢は変わっていくはずだ。好機に強い打線作りを大いに期待したい。
戦力外選手としては異例になるファン感謝デーでの挨拶で、今浪隆博は引退理由を「廣岡大志に押し出された形」と述べて笑わせた。今浪流の置き土産を、選手もファンも受け取った。
そのプレイスタイルもキャラクターも独特過ぎて、彼に似た選手はまず現れそうにない。しかしこれからのシーズン、チャンスに強い打者が出てきたならば、その選手は「今浪のような」と形容されるだろう。そんな打者が何人も現れれば、チームは必ず上昇していくはずだ。
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