「代打の神」として浮かぶ名前は数あれど、直近の記憶は最も色濃く残っている。その名は今浪隆博。ヤクルトでの実働僅か4年弱とは思えない印象的な選手がユニフォームを脱いだ。「お立ち台での『すべり芸』」「守備のユーティリティ」とともに特筆すべき「勝負強さ」を持ち、ファンにこよなく愛された。甲状腺機能低下症という病気がなければ、チームには絶対必要とされたはずの選手だった。

 そもそも勝負強さとは何だろう。簡単な指標としては、打点や得点圏打率、代打成功率など、チャンスで打てるか、得点に繋げられるかという数字に表れる。2017年のヤクルトでは全くの弱点で、勝負強い選手がほぼ見当たらなかった。連打がない、タイムリーがない、満塁にしても点が入らない。「こんな時に今浪がいてくれたら……」と誰もが思ったことだろう。

昨季限りで現役引退した今浪隆博 ©時事通信社

切り札として期待したい二人の男

 歴史的な大敗から首脳陣も変わり、練習方法も方針も変わった。来季に向けて主力が戻れるか、力のある若手が伸びてくるかなど、ポイントは色々あるが、層の厚さやベンチに頼れる「控え」がいるかも重要になってくる。セ・リーグもDH制の導入が検討されているとはいえ、まだまだ代打は重要だ。特に切り札として力を発揮して欲しいのが「右の鵜久森」「左の大松」だ。

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 ポジションの兼ね合いもあり、この二人は恐らく代打がメインになるだろう。右ならランナーなしで比屋根、ランナーがあれば鵜久森。左ではランナーなしで上田、ランナーありで大松など、ベンチ入り選手によっても変わるがパターンはある。チャンスで出てくる確率が高い代打はこの二人だ。

 鵜久森淳志の2017年シーズンは、華々しい幕開けだった。史上初、開幕シリーズでの代打満塁サヨナラ本塁打は、記録にも記憶にも残る1本となり、続くサヨナラヒットで「勝負強い」「サヨナラ男」と言われた。

 その時にはチームも俄然盛り上がったが、後が続かない。7月には二軍落ちとなり、チーム事情で若手の経験を優先させたこともあってか、一軍へ再び上がることはなかった。

 大松尚逸はサヨナラホームランを2回打ち、強烈な印象を残した。苦しい時の一発は暗黒のシーズンの救いでもあった。「右の鵜久森」「左の大松」二人で4本のサヨナラを演出したのだから、代打の二枚看板は一応機能したと言っていいのかもしれない。だが大松も打率は.162に留まり、鵜久森は後半戦をファームで過ごした。

 宮本ヘッドコーチは秋季キャンプで「体を大きくする」「ご飯三杯がノルマ」「筋量アップ」という指令を出したが、二人とも体格や筋量は充分だろう。現在は打席での対応力を上げる方法を模索している。鵜久森はミートしやすい短いバットを試し、大松はクローザーの速球に対抗すべく軽いバットを用意するという。練習熱心な努力家の二人に、+αで勝負強さが加われば、チームに欠かせない強力な切り札になれる。