だれもが容易に発信できたり、趣味がかぎりなく多様化している時代の影響か。ジャンルの壁を軽々と飛び越えて、多彩な創作やコラボレーションをする表現者が増加中だ。

 たとえば、小説作品のストーリーや世界観をもとに音楽を紡ぐYOASOBIとか。演技派として名を馳せる俳優の永山瑛太が、名機ライカで撮った写真作品の個展を開いたり。

 アート分野で、そうした幅広い活動を際立たせているのは、写真家の佐内正史である。

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 佐内は1990年代にデビュー、97年に写真集『生きている』を刊行して大いに注目を浴びた。以来、写真表現の第一線で活動を続けている。

 道端のガードレールや電柱。食堂の卓にのった食べかけのカツカレー。現代の日本で暮らしていればよく目にする事物や光景を、作為やよけいな情感など入れ込まず、まっすぐありのままに切り取るのが佐内写真の特長だ。

佐内正史(左)、曽我部恵一(右)©佐内正史

 分類するなら「日常を撮ったスナップ写真」ということとなり、感性と雰囲気に頼った作風かと思われがちだが、そうじゃない。日に照らされたアスファルトや、冷たい水の入ったグラス表面の手触り、質感まで画面から伝わるのは、たしかな技術と表現力があればこそ。無作為にシャッターが押されているようでいて、じつは光の射し具合や構図もよくよく吟味されている。

 だからこそ、画面の中にあるものすべてが、観る側の目に異様なほど新鮮に映るのだ。日常のあらゆるモノや場所は見るに足ると教えてくれて、世界を肯定する表現であるところが、佐内作品の色褪せぬ人気の所以だろう。

写真集『写真の体毛』(2022年、対照)より ©佐内正史

他ジャンルとの斬新コラボレーション

 佐内正史はかねて、他分野のアーティストとのコラボレーションを盛んにおこなってきた。作家の角田光代の文章に写真を組み合わせた書籍『だれかのことを強く思ってみたかった』や、ファッションブランド「シナ スイエン(SINA SUIEN)」のショー撮影などなど。

 このところ注力しているのは、写真作品を大きくあしらったTシャツの製作。スタイリスト伊賀大介、ファッションブランド「タンタン(TANGTANG)」デザイナー丹野真人と組んで、レーベル「ガサタン(GASATANG)」を立ち上げ、続々と新作を発表している。

写真集『写真の体毛』(2022年、対照)より ©佐内正史

 岡本太郎の《太陽の塔》をドンと撮影した写真が用いられていたりと、洒落ていながらインパクト絶大なTシャツは、男女を問わず人気を呼ぶ。ただ、写真家としてはどうなのだろう、自身の作品が衣類の一部になってしまうことに抵抗感はないものなのか?

©佐内正史