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阪神大震災から23年 オリックスの「がんばろうKOBE」はいまだ風化していない

文春野球コラム ウィンターリーグ2017

2018/01/17
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神戸を背負って戦った選手達

 添えられた資料を見てみると、今から10年前に小児病棟で長期入院している子供達に田口と辻が会いに来たらしい。メジャーリーガーの登場に子供達はたいそう興奮したとのことだった。また出産を控えたプレママ達を色めき立たせたとか。そのユニフォームは現在一旦撤去されているが、立ち止まって見つめる人が多かった。

病院に飾られていた田口のユニフォームと辻の帽子、リストバンド ©:SAZZY

 息子の入院中、私が野球を好きだと聞いた病院の先生がまるで昨日のことのように田口と辻の話をしてくれた。その先生の目は診察中などとはうって変わって輝いていた。するとその場にいた、普段は野球の話をあまりしない義母も田口の話をし始めた。義母も同じく目が輝いていた。

 義母は震災の後、オリックスの試合を見に行くようになったらしい。子供がフェンスの隙間から差し出したお菓子を田口が食べていたのを見たらしい。その子供もきっと震災で大変な思いをした子供だっただろう。その子供の気持ちに応えた田口の姿を見てファンになったそうだ。「あの時はイチローも良かったけど田口がねぇ〜」と嬉々として話していた。私が立ち入れなかった野球の話がそこにあった。「がんばろうKOBE」の旗の下でがんばった人たちの会話だ。

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 震災の記憶が風化しないのなら、希望も同じく風化しない。少しずつ世代を超えて人の心の活力になっている。それがまさに「野球の底力」ではないだろうか。

 私も神戸に3年ほど住んでいたが、震災について話を聞くことがあると、ほぼセットになって野球の話が出てくる。人によって出てくる選手の名前は違うが、神戸を背負って戦った選手達を皆はっきりと覚えていた。

 神戸で試合が行われるとなると、球場にたくさんの人が詰めかける。神戸の中心地、三宮から市営地下鉄山手線に乗っておよそ20分。電車の中にはオリックスの選手の写真が貼られている。総合運動公園駅に着くと「日本一美しい」と称された球場はすぐそこにある。交通の便はいいとは言えないが、この球場はそれを感じさせないエネルギーを感じる。「神戸の試合だから行かなきゃ」という他球団ファンも多いと思う。

 神戸で行われる試合は随分と減ってしまった。正直な話、どんなカードでもいいのでもっと試合をやってほしいと思っている。1軍の試合でも、ウエスタン・リーグの試合でも。神戸にはサッカーもラグビーもある。他にもいろんな娯楽はある。それでもやはりこの街には野球が必要だ。野球があればあの辛い震災の記憶も、その後に生まれた希望も語り継ぐことができる。

 1月17日は特別な日。あの日のことを思い出し、野球の力を感じる日だ。

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阪神大震災から23年 オリックスの「がんばろうKOBE」はいまだ風化していない

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