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 山田邦子や上沼恵美子に憧れるも、「あんな風にはできない」と劣等感に苛まれる日々。中島はそれを「むなしさ」と表現していた。「名だたる芸がある方と比べたら、話芸を組み立てていくということは、私にはなくて。ただMCをやっていくっていう。だから、やっていく中で、やっぱりちょっとむなしかったですよね」。

 彼女も山田同様デビューとともに瞬く間に売れ、気づけばMC席にポツンと座っていた。他の芸人にはあるのに、自分にはないと語った「積み重ねたものの自信」。

 一視聴者として見れば、当意即妙な受け答え、尺の感覚、最後の最後に落とす顔芸……バラエティ番組を仕切る才能に溢れているように中島知子は見えた。彼女に自信を与えてくれなかったものは何なのか。

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 それはやはり、「孤独」だったのではないかと、今あらためて思う。本来であれば一番近くで切磋琢磨したい相方のことを信頼できず、家族問題にも悩まされる、でも仕事はどんどんやってくる。

中島がインタビュー中、しばしば口にしていた言葉

「ダサい話なんですけど『どこにオチを持って行きたいんでしょうか? ちょっと教えてもらっていいですか?』ってスタッフさんに聞いてやってましたね。分からないことを全部」。

「オチをどこに持っていくのか」をスタッフに訊ねるのはある意味すごいことだが、この話を聞いたときに「ああ、本当に一人で戦っていたんだな」と強く感じたのを覚えている。

 誰でも自分に任された仕事は、失敗したくないと思う。しかし失敗してしまうこともある。一度の失敗で命まで取られることはないだろうと開き直って、また立ち上がれる。

 しかし、中島は「失敗できないので」ともしばしば口にしていた。失敗したときに開き直って立ち上がれる「自信」が、中島にはなかったのではないか。その自信とは、何があっても助けてくれる、支えてくれる誰か。そして失敗する前に、中島はテレビのMC席から姿を消してしまった。

「ポッと出のミーハーが(山田)」「素人の延長のような自分が(中島)」不動の女性MCとして一時代を築いた、山田邦子と中島知子。80年代と90年代に「点」で置かれた女性芸人は、孤独と無力感の中で、それでも必死にエンターテインメントであろうとした。

女芸人の壁

西澤 千央

文藝春秋

2022年11月9日 発売