「最後の審査だと思って挑んでます。本当にファイナルです」と、上沼恵美子(65)の“引退宣言”で幕を開けた「M-1グランプリ2020」は、マヂカルラブリーが史上最多5081組の頂点に立った。
大会のクライマックスも、上沼によるものだった。3年前のM-1決勝で「よう決勝に残ったな」と酷評したマヂカルラブリーの優勝に対して「あんたら、アホやろ。バカバカしさを突き抜けて、芸術や」と賛辞を送った場面は、3年越しの大団円となった。
上沼はM-1で、女性初、そして唯一の審査員として2007年から2020年まで、8大会の審査を務めている。芸人たちに浴びせる忖度なしの発言はガチンコと信頼される一方で、たびたび炎上してきた。彼女に反発したのは視聴者だけでなく、2018年には前年に優勝したとろサーモン・久保田かずのぶ(41)とスーパーマラドーナ・武智(42)がインスタライブで上沼の審査を批判する事態も起きた。
M-1の空気を大きく変えた上沼の歴史に残る“名審査語録”を、お笑い評論家のラリー遠田氏が解説する(点数は上沼が当時そのコンビに入れた100点満点での評価点)。
2007年 ハリセンボン 86点
「私も昔やってましたのでわかるんですけど、女性同士の漫才っていうのは、ネタが限られるんですよね。ちょっとやり過ぎたらガラが悪くなる。笑えなくてお客さんが俯いてしまう。(ハリセンボンには)それがまったくない。ものすごく品があって、見やすくて、完璧。ただ、女性同士は恋をすると漫才がおもしろくなくなります。(ハリセンボンを見て)……その心配はないと思います」
ハリセンボンはこの年、近藤春菜の強烈なキャラクターを活かした漫才で、女性芸人としては南海キャンディーズのしずちゃん、アジアン、変ホ長調に次いで4組目の決勝出場となった。
上沼の「恋をするとおもしろくなくなる」という言葉は、今であれば炎上しそうな“時代錯誤”の内容にも感じられるが、自分自身が女性芸人として長く活躍してきた彼女の実感のこもった発言だけに重みがある。上沼が若手の頃は今よりもずっと女性芸人の立場が弱かった。彼女は周囲に色眼鏡で見られながらも、それを実力で跳ね返してきた。そんな経験をもとに後輩たちにエールを送る意味で温かい言葉をかけたのだろう。