たった4球で終わった高校最後の夏
一方、静岡大の右腕・山崎智也は「上の世界でやってみたいです。スピードが上がってきて、周りの反応も変わってきて、まだまだやれるんじゃないかという気持ちです」と、やや控えめではあるがプロや社会人野球への進路を視野に入れている。
高校時代まで全くの無名投手だった。中学時代までは主に外野手。進学校の磐田南で本格的に投手を始めたが控えの投手で、3年夏は負けている展開の8回裏に打者2人に対して4球を投げたのみで初戦敗退して、高校野球生活を終えた。
ただ不完全燃焼で終わったからこそ、野球に対して心残りがあった。当初は東京学芸大を目指していたがセンター試験の成績などを鑑みて、入学前の2014年春に全日本大学野球選手権に43年ぶりの出場を果たしていた地元の静岡大に進路を変更し、進学を決めた。
すると、高校時代は133km/hだった球速は大学1年の冬を越えると140km/h台に到達。2年夏には145km/hを計測するまでになった。
その急成長の要因には、高山慎弘コーチの助言で肩甲骨周りをより柔らかく使えるようにするため、短距離ダッシュを繰り返したことが大きいと本人は分析する。阪神の吉野誠スカウトも「フォームに柔軟性があって球のキレもあるので楽しみ」と期待するように、スカウトの注目度も上がってきた。これは山崎自身も「大学に入った時には思いもしなかった状況です」と正直に明かす。
そして「私立と違って人数も少ない分一人ひとりを見てもらえますし、同期にも良い投手が多いので切磋琢磨できています」と話すように、周囲の選手たちの能動的な練習姿勢も山崎には大きな刺激となってきた。エース格には制球とマウンドさばきに長けた同期の最速144km/h右腕・竹内武司(愛知・半田高出身/社会人志望)がいるように、チームメイトとも競争は続いている。
松下と山崎はそれぞれ陽の当たる道を歩んできたわけではない。ただ、だからこその生命力や開拓力があるはずだ。またこうした原石がより高いレベルで磨かれた時にどんな輝きを見せるのか。そんな期待も抱きながら、彼らの投球を見ていきたい。
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