娘は咎められたように感じたのだろうか、以降ネリドさんからの連絡が途絶えるようになった。3週間ほど音沙汰がないことを不安に思ったエレンさんがノルウェーの地元警察に通報したところ、ほどなくしてネリドさんから怒った様子で無事を知らせる電話があったという。母娘は再び連絡を取り合うようになったが、時にエレンさんはネリドさんが別の人間に変わってしまったように感じたこともあった。
年が明けて2020年1月8日。エレンさんのもとに「Happy New Year. Love you(あけましておめでとう。愛してる)」というメッセージがネリドさんから届く。これが親子の最後のコミュニケーションになった。
亡くなる前から暴力をふるわれていた痕跡が…
「今思い返せば、そのころにすでにオグとトラブルになっていたんでしょう。遺体が発見されてから、オグが殺人容疑で国際手配されましたが、私なりに何が起こったのか調べることにしました」
ノルウェーからはるか遠いラオスで起こった愛娘の死の謎を追うエレンさんのもとには様々な情報が寄せられたという。
「ネリドの友人が彼女を訪ねてパンガン島に遊びに行ったときに、不可解なことに気付いたと話してくれました。ネリドは常に鈴のついた首輪をしていて、オグのことを『マスター』と呼んでいたそうです。彼氏のことをマスターと呼ぶのはおかしいと不信感を抱いたそうです。このほかにも、ネリドが友人たちに送ったボイスメッセージで、オグに暴力を受け病院に行ったことなどが記録に残っていました」
遺体の解剖報告書に古い骨折の記録があったという。エレンさんには、ネリドさんが骨折するようなケガを負った記憶はない。亡くなる前から暴行を受けていたんだ、と直感的に思った。
「私は真実が知りたいのです」
ラオス当局からもたらされる情報、ネリドさんの友人知人が漏らす話を聞くうち、オグという日本人の男が暴力をふるったのは彼女だけではないこともわかってきた。
「オグはネリドと交際する前に、何人かヨーロッパ系の女性と付き合っていたことがありました。オグはドラッグの密売をして稼いでいたほか、交際相手から金を搾り取っていたようです。このうち、オグとの間に子供をもうけた女性と連絡を取りました。彼女はオグと一緒にタイで暮らしていましたが、暴力や言動に身の危険を感じ、今はヨーロッパで子供と暮らしているそうです」
エレンさんによると、裁判はまだ始まっておらず、オグに対する殺人容疑の判決は下っていないという。
「私はオグの顔すら見たくありません。裁判も見に行かないでしょう」
娘を殺したおぞましい日本人の行跡を知るうち、エレンさんにとって、オグはモンスターのような存在になっていく。
「ネリドは私の人生であり、未来でもありました。それなのにオグは娘をゴミのように捨てたのです。私の人生は完全にオグによって壊されました。こんな悪夢のような出来事を世界中のどんな親にも経験してほしくありません。オグがどのようにしてこんな人間になってしまったのか――。私は真実が知りたいのです」
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