漫画家には、“徹夜”のイメージがつきまとう。「〆切前は3徹」や「原稿が完成するまでカンヅメ」といった激務エピソードには事欠かない業界だ。

 しかしピエール手塚(40)は、『ゴクシンカ』と『ひとでなしのエチカ』の2本を連載しながら、サラリーマンとしても働いている。しかも会社では管理職(課長)。兼業漫画家である彼に、驚異のスケジュールをこなす秘訣を聞いた。(全2回の1回目/後編を読む)

会社では管理職、家では2本の連載を抱える“40歳の新人漫画家”にインタビュー。「必ず〆切を守る」その働き方とは? ©ピエール手塚/KADOKAWA

◆◆◆

ADVERTISEMENT

職場の誰も、漫画については知らない

――昨年、手塚さんは『ゴクシンカ』で連載デビューしました。現在40歳とのことですが、ずっと会社員ですか?

ピエール手塚 そうですね。オリジナルの漫画同人誌を出していたら、漫画賞への応募を勧められて、37歳のときに『ねえママ あなたの言うとおり』で「第80回ちばてつや賞」のヤング部門で佳作をいただきました。そこから商業デビューに繋がっていったわけですが、これら全部、会社員をしながら起きた出来事です。このあいだに昇進して役職もつきました(笑)。

40歳にして「月刊コミックビーム」の連載陣に仲間入り ©ピエール手塚/KADOKAWA

――勤め先には、漫画家として活動していることを伝えているのでしょうか?

ピエール手塚 就業規則を熟読した結果、問題なさそうだったので、会社の誰にも伝えていません。自分はIT系の企業で働いているんですが、エンジニアが副業で技術書を出したりしているんですよね。「まぁ同じようなことだろう」と判断して勝手にやっています(笑)。

――ということは、〆切前などに職場に融通をきかせてもらうことはなく……?

ピエール手塚 はい。コロナ禍でリモート出社が8割でしたが、管理職になったので、去年の春からはほぼ出社しています。だから自力で計画的に漫画を描かないといけません。

――どのようなスケジュールで作業を進めているのでしょうか?

ピエール手塚 大体ネームに10日、作画に20日ですね。連載が1話につき24ページとすると、コマ数にして100コマちょっと。1日5、6コマ描けば、〆切に間に合います。

「1日5、6コマ描けば、〆切に間に合います」 ©松本輝一/文藝春秋

――そんな「ね、簡単でしょう?」みたいに言われても……。

ピエール手塚 全体のコマ数のうち何%まで進んでいるか、エクセルで工程表みたいなものを作って日々数字で管理してはいます。「ちょっと遅れているから休日で取り戻すか」とか「ここで貯金を作っておくか」とか。会社の仕事は関わる人間が多いぶんスケジュール管理も大変ですが、漫画は自分さえ頑張ればなんとかなるので、そんなに辛い気持ちで連載をせずに済んでいます。