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「連載2本&サラリーマン(課長)」を両立させる“ただ1人の漫画家”! 40歳の新人・ピエール手塚が「超多忙でも〆切を守る」理由

「40歳、新人漫画家」の生存戦略 #1

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専業漫画家になる選択は?

――『ゴクシンカ』でも『ひとでなしのエチカ』でも、組織のしがらみを描いていますよね。その視点は会社員らしいなぁと感じます。

出世作『ゴクシンカ』で描かれるエピソードの多くは“実話” ©松本輝一/文藝春秋

ピエール手塚 そうですね。組織のあれこれに限らず、「しらす丼を注文したのに店員に忘れられた」とかも実話なんですよ(笑)。『ゴクシンカ』のベースにあるのは、自分自身が飲食店で遭遇したトラブルをテーマにしたエッセイ漫画の同人誌で、主人公の手塚冷士はもともと僕の分身なんです。

 自分の体験談をより緊張感のあるシチュエーションに置き換えることで、何か浮かび上がってくるものがあるんじゃないかと考えています。だからヤクザの漫画を描いてはいますが、実は全部ただの会社員の話なんですよ。

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『ゴクシンカ』第1話 ©ピエール手塚/KADOKAWA

――手塚さんの漫画は、独特のセリフ回しも印象的で、会話劇としても楽しめます。

ピエール手塚 セリフの多さも、会社員の経験が関係している気がします。たとえば開発の仕様書を書くとき、いかようにも読める文章だと現場が混乱してしまうので、なるべく誤読が起きない書き方を探っていくと文章がどんどん長くなる。同じことが漫画を描くときにも起きています。

 こう説明すると、読み手をあまり信用していないみたいに聞こえちゃうんですけど、僕の「こういうふうに読んでほしい」という気持ちが強いという話でもあるのかなと。基本的にセリフが長いからこそ、“あえて言わせない”シーンが引き立つんじゃないかとも考えています。

――会社員としての経験が、いろいろな形で創作に生きているんですね。専業作家になることは考えないのでしょうか?

ピエール手塚 漫画がものすごく売れたら考えるでしょうが、今は専業になるほどではありません(笑)。兼業作家としては今描いている量が限界だとは思うので、もっとたくさん描くとか、もうちょっと速いペースで描かないといけないような状況になれば、そのときは専業にならざるをえないかなという感じです。

――兼業作家であることのメリットとは何でしょうか?

ピエール手塚 やっぱり一番は、「生活の心配がないこと」ですね。もちろん連載が始まってからも大変ではありますが、収入的に辛いのは、連載獲得に向けて頑張っている期間です。会社員じゃなかったら、無収入の状態で「このネームは通るのか? 本当に商業デビューできるのか?」と悩むことになっていました。ほかに仕事があるぶん、漫画を描くのも仕事仕事した感じにならず、わりと健やかにやれています。

 以前、兼業作家のカレー沢薫先生が「会社員という立場によって守られているものがある」と話していました。たしかに家を借りるにしてもクレジットカードを作るにしても、“会社員”であることで信用してもらえる場面って多いと思います。だからカレー沢先生の言葉にすごく共感したんですが、その後カレー沢先生は専業作家になっちゃいました(笑)。

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ゴクシンカ 1 (ビームコミックス)

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