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世界の富を独占する「上位0.1%の超金持ち」は“善良”なのか? 哲学者・斎藤幸平が考える、資本主義の限界の克服法

世界の富を独占する「上位0.1%の超金持ち」は“善良”なのか? 哲学者・斎藤幸平が考える、資本主義の限界の克服法

斎藤幸平×ルトガー・ブレグマン 特別対談 #1

source : 翻訳出版部

genre : ニュース, 読書, 社会, 国際, 政治, 経済, SDGs

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なぜ善良な人々が戦争するのか

斎藤 おっしゃる通りです。ただし私自身、じつはブレグマンさんの説への疑問もあるんです。

「ほとんどの人間は本質的に善良である」というあなたの主張にもかかわらず、今この瞬間にも、ウクライナでは戦争が起きています。なぜなのでしょうか。

ブレグマン 確かにヨーロッパの歴史は戦争にまみれています。とくに20世紀の前半は二度の大戦が起こり悲惨でした。

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 しかし、私が言いたいのはこうです――「ほとんどの人間は善良だ。しかし、権力は腐敗する」。

 ウクライナ戦争も、権力を持った独裁的な人間が始めました。まさに私の住んでいる欧州で起きています。だからこそ、民主主義の大切さ、自由に集まり自由に発言できることの大切さを痛感しています。ウクライナは、民主主義のために戦っているのです。

 同じようなことが、第二次世界大戦でも起きました。ナチスドイツは、ロンドンを空爆したらイギリスが降参すると思いました。しかし空爆を受けたことで、逆にロンドン市民は頑張り士気は高まったのです。ヒトラーと同じくプーチンも、ウクライナを攻撃すれば、士気を挫くことができると思いました。けれどもご存知の通り、ウクライナは善戦しています。

 そもそも、いわゆる“戦争”が起き始めたのは人類史において最近のことなんですよ。農耕文化や定住の始まりが、そのきっかけになったとの研究もあります。

 なぜ善良な人々が戦争するのかについては、仲間への共感、社会的な同調という観点からも説明が可能です。

スーパーリッチな人々の実態は

斎藤 仲間や家族を敵から守るために、人間は残虐になってしまうということですね。まさに人間性の持つジレンマです。

 一方で「腐敗した権力」という言葉から私が連想するのが、世界の上位0.1パーセントを占めるような現代のスーパーリッチな人たちです。彼らは、他の人の生活を想像し、共感する力に欠けているように思えます。地球環境に悪影響を与えるプライベートジェットやクルーズ船を所持したりと、まるで地球は我々のものだと言わんばかりです。

 人権を侵害する独裁者に制限を加えるように、スーパーリッチたちにも制限を加えるべきではないでしょうか。

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