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ブレグマン 私は、スーパーリッチや世界的エリートが集うダボス会議へ出席したことがあります。しかし彼らが傲慢で自己中心的かというと、実際はフレンドリーで人柄もあたたかいのです。そして彼らは、ネットフリックスで放映されている「OUR PLANET 私たちの地球」という環境ドキュメンタリー番組を観て、この地球が破壊されている、と共感して涙を流しているんです。

 でも私は、そんなあなたたちが地球を破壊しているのですよ、と言いたい(笑)。だって、1500機ものプライベートジェットでダボス会議に参加しているのですから。

 もともと人間は、映画「ダークナイト」のジョーカーのような、悪それ自体を楽しむような邪悪な存在ではありません。にもかかわらず、戦争や環境破壊などが起きてしまうのは、本当に悲劇的ですよね。

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「SDGsは大衆のアヘン」なのか

斎藤 共感する能力というのは、人間の強みでもあり、弱点でもあるということでしょうか。

ブレグマン はい。共感する能力、そして集団の一員でありたいという願望は、私たちのDNAに備わっています。日本は文化的にも、とくにその傾向が強いと感じています。人と違う意見を表明して目立ってしまうと、社会的なペナルティを受けるという現象も、日本においては顕著ですね。

 とはいえ、おかしいことにおかしいと声を上げないと社会は進歩しません。18世紀に奴隷制廃止のため、19世紀に女性解放のために声を上げて戦った人々には、“嫌われる勇気”がありました。彼ら彼女らは当時、変人扱いされましたし、生きているあいだに目に見える成果を得られなかったかも知れません。でも、そんなペナルティにもかかわらず、声を上げたのです。

斎藤 全く同感です。その意味で、グレタ・トゥンベリさんは本当に勇敢ですね。地球環境が危機的状況にあることを世界に知らしめて、私たちの考えを根本から変えてくれたのですから。

 けれども状況はあまり変わっていません。二酸化炭素の排出量は減っていない。私は『人新世の「資本論」』の冒頭で「SDGsは大衆のアヘンだ」と述べましたが、再生可能エネルギーに投資したり電気自動車を作ったりすれば環境によいことをしている、と私たちは安心しがちです。しかしやっていることは、今までと同じくお金儲けなのではないでしょうか。

 世界が直面している危機に対しては、もっとほかにするべきことがあります。たとえばコロナ禍の際には、人々の命を守るためにロックダウンや市場介入が実現しました。これらは、政治家や科学者が必要だと提唱したからです。同じような大胆な政策を、環境問題についても行うべきです。