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イギリスではなぜ鉄道員、教員、そして看護師までストライキを始めたのか? 混迷する現代に示唆をもたらしてくれる“ある哲学者の思索”

國分功一郎とブレイディみかこが語る“沈みゆく世界”#1

source : 文學界 2023年3月号

genre : ライフ, 社会, 国際

 気候変動、ウクライナ戦争、インフレ……、混迷を深める時代に希望はあるのか?『スピノザ――読む人の肖像』が話題の國分功一郎さんと、『他者の靴を履く』がロングセラーとなるブレイディみかこさんが、エッセンシャルワーカーのストライキから現代社会における自由意志の問題まで、縦横無尽に語り合った。

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ニッポンでは報じられないイギリスの朝のトップニュース

國分 大変ご無沙汰しております。今日は「文藝春秋100周年オンライン・フェス」というイベントの一環で、日本にいる僕とイギリスのブライトンにいるブレイディさんをつないで、お話しすることになったのですが、「〈沈みゆく世界〉から立ち上がる」という大変なタイトルをいただいています。

©Shu Tomioka

ブレイディ すごいタイトルですよね。

國分 世界が沈没しつつあることが大前提になっているわけですからね。でも、こういうタイトルが与えられても、僕らは特に驚かなくなっている。むしろ沈んでいることが当たり前ということが共通認識になっている気がします。

 早速ですが、ブレイディさんは、いまイギリスにいらして、イギリス固有の、あるいはヨーロッパ固有の問題を肌身で感じていらっしゃると思うので、まずはそのあたりからお話しいただけますか。

ブレイディ 今日もそうだったんですが、最近は朝、起きてラジオを付けると、最初にストライキの話が出てきます。いま、ストライキが本当にすごいんです。私はこの国に四半世紀以上住んでますけど、こんなにいろんな人たちがストライキをやっていたことはないんですよね。

 今年(2022年)のイギリスって、世界的に様々な話題を提供したじゃないですか。エリザベス女王の国葬があり、レタスの賞味期限より権威を失うまでの期間が短かったトラス首相の交代劇があり……。でも、そのように騒がれている派手な部分の底でずっと変わらずに進行してきたのが、物価高による貧困拡大、生活苦の問題です。「コスト・オブ・リビング・クライシス」という言葉が、今年はあちこちで飛び交いました。たとえばこの間、久しぶりにヤフーUKのサイトを見たら、ニュースサイトのトップに「コスト・オブ・リビング・クライシス」というページができている。隣のトピックはウクライナ戦争ですよ。それぐらいイギリスでは物価高がニュースのテーマであり続けたし、私たちの生活を揺るがす大変な問題になっています。