多様な世界を目指すならば、意見の対立は避けられない。しかし、学校では大人がトラブルに介入し、子どもたち自身の対話の機会を奪っている。従順型の子どもを量産してきた教育はいかに変わっていくべきか。最新刊『子どもたちに民主主義を教えよう』(苫野一徳氏との共著)を出版した現・横浜創英中学・高等学校校長(元・麹町中学校長)の工藤勇一氏と、イギリス・ブライトンで保育士として働いていた経験を持ち、初の小説『両手にトカレフ』を上梓したブレイディみかこ氏に未来の教育のヒントを聞いた。
従順な人間を育てる教育が社会を崩壊させる
工藤 ブレイディさんのご著書、とても興味深く読ませていただきました。ブレイディさんと私とで特に似ている感じた点は、従順な人間を育てようとする教育がダメだと考えるところですね。
従順な人間を育てる教育と真逆の位置にあるのが、自己決定できる人間を育てる教育ですが、自己決定していくことは、実際、容易なことではありません。利害も価値観も異なる人々が集まって話し合いをすれば、一般に対立が起こります。当然、自分勝手に自己決定することはできません。
しかし、この経験にこそ価値があります。対立が起こることで、社会の中で自己決定をすることのジレンマを一人ひとりが肌で感じていきます。この経験を積むことでブレイディさんの言う「エンパシー」を持った、対話のできる、自律型の子どもたちが育っていきます。多様な生徒たちが、それぞれを尊重しながら対話を通して自己決定をし、新たなものを生み出していく。そういった形を目指すのは教育の基本です。
ブレイディ 本当にその通りですね。
工藤「学校は何のためにあるか」。私はこれまで、子どもの「自律」のためにあると強調してきました。しかし私の中には、さらに上位の目標があります。それが、民主主義教育です。ただ日本社会において、「民主主義」という言葉は誤解を生みやすく、気軽に使うと対立を生んでしまいます。
しかし、時代は変わりました。SDGsが「持続可能な社会をつくる」ために「誰1人置き去りにしない」という目標を出したことで、目指す学校の姿を誰もがわかる言葉にできそうだと感じ、『子どもたちに民主主義を教えよう』を書けると思ったのです。