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「継母はどうしてシンデレラをイジメたのか?」…何気ない問いが示す子供の教育で大切な“たったひとつのこと”

「継母はどうしてシンデレラをイジメたのか?」…何気ない問いが示す子供の教育で大切な“たったひとつのこと”

“学校改革”の工藤勇一とブレイディみかこが語るニッポンの教育

2022/11/12
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いま教育を変えることで、日本の大人たちを変える可能性がある

工藤 私も今の日本の最大の課題は「当事者意識」が足りなくなったことだと感じています。

ブレイディ 私はこれまで、これからの日本を真剣に考えるならば、対症療法ではもうだめなのではないか、10年、20年先の未来を見据えて、教育を変えなければいけないのではないかと言ってきました。統治しているのは自分たちだと子どもたちに分かってもらい、自らに自律の力が備わっているということを実感し、自信をつけてもらわなければいけません。

 イギリスでシティズンシップ教育が導入されたのはちょうど20年ほど前でした。なので、今世紀に入って教育を受けた人たちとそれ以前の人たちでは感覚が結構違います。イギリスの若い人たちが政治に熱心だったり、社会的な意識が高かったりするのは、教育改革のひとつの結果でしょう。

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 だけど、実はそんな何十年も先まで待つ必要はないのかもしれない。なぜなら、いま教育を変えることで、教師や保護者たち、つまり日本の大人たちを変える可能性があるからです。子どもを持ったり、日常的に子どもと接する機会があると「この子の未来はどうなるんだろう」と考えるようになるので、国のあり方や制度のあり方についてより一層真剣に考えるようになりますよね。それを踏まえれば、学校が教師や保護者や地域の人々を巻き込んで、下からの改革を生むことも可能なのかもしれません。

©Shu Tomioka

工藤 おっしゃる通りですね。私も、保護者が変わっていく場をつくることを目指してこれまで頑張ってきました。

 特に麹町中学校では、主体性を失って、大人も学校も大嫌いになった子どもたちが大勢入学してきます。私たちは「リハビリ」と呼んでいたのですが、その子どもたちの主体性を取り戻すには、ほぼ1年かかります。しかし、一旦自律を獲得できれば、一生ものです。これを丁寧に保護者の方に伝えることが大切です。そうすれば、トラブルを子どもの学びにするためにはどうするのがよいかを、話し合っていくことができるからです。そのなかで、保護者の方も変わります。保護者が変われば、保護者が生きている世界も変わります。日本中の学校を変えていければ、自ずと社会全体が変わります。そうした力が学校にはあります。

 なにより、自律型の教育をしていれば、進学実績や偏差値に代表される従来の教育のニーズも満たせるでしょう。その結果が世間に知られてゆけば、私たちの真似をしてくれる学校が増えてくると思います。今、全体像を見せられるよう準備しています。ぜひ今後に注目してください。

(オンライン対談、構成:雨宮進)

工藤勇一
1960年山形県鶴岡市生まれ。横浜創英中学・高等学校校長。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを経て、2014年から千代田区立麹町中学校長。教育再生実行会議委員、内閣府規制改革推進会議専門委員、経済産業省の産業構造審議会臨時委員など、公職を歴任。2020年3月まで千代田区立麹町中学校で校長を務め、宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止などの教育改革を実行。著書に『最新の脳研究でわかった! 自律する子の育て方』『学校ってなんだ!』(鴻上尚史氏との共著)など。

 

ブレイディみかこ
1965年福岡県福岡市生まれ。96年から英国ブライトン在住。ライター、コラムニスト。2017年『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』で新潮ドキュメント賞、19年『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』でYahoo!ニュース|本屋大賞2019年ノンフィクション本大賞、毎日出版文化賞特別賞などを受賞。他の著書に『労働者階級の反乱』『女たちのテロル』『ワイルドサイドをほっつき歩け』『ブロークン・ブリテンに聞け』『両手にトカレフ』などがある。

 

両手にトカレフ

ブレイディみかこ

ポプラ社

2022年6月7日 発売

 

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